判旨
被告人が自己の被告事件に関し他人に虚偽の陳述をするよう教唆した場合でも偽証教唆罪が成立し、また、偽証の実行犯による「被告人から依頼された」旨の供述は、被告人の自白そのものではないため、補強証拠なくして被告人を有罪とする根拠となり得る。
問題の所在(論点)
1. 被告人が自己の刑事事件について他人に偽証を教唆した場合に偽証教唆罪が成立するか。 2. 偽証本犯による「被告人から教唆を受けた」旨の証言が、刑訴法319条2項の「自白」に該当し、別途補強証拠を必要とするか。
規範
1. 被告人が自己の被告事件について他人に虚偽の証言を教唆した場合であっても、偽証教唆罪(刑法169条、61条1項)が成立する。 2. 偽証の実行犯が公判廷で行った「被告人から偽証を依頼され、承諾して虚偽の陳述をした」旨の証言は、実質的に被告人の自白を内容とするものであっても、刑事訴訟法319条2項にいう被告人の「自白」には当たらない。したがって、当該証言を直接の証拠として偽証教唆の事実を認定することは、憲法38条3項及び刑訴法319条2項に違反しない。
重要事実
被告人は、自らが被告人となっている刑事事件において、知人Aに対し、裁判所で虚偽の事項について証言するよう依頼し、Aはこれを承諾した。その後、Aは公判廷で宣誓の上、依頼された通りの虚偽陳述を行った。一審判決は、Aの公判廷における「被告人から依頼された」旨の証言等を根拠に、被告人を偽証教唆罪で有罪とした。被告人側は、Aの証言は被告人の自白を内容とするものであるから、自白のみによる有罪判決を禁じた憲法及び刑訴法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 判例の趣旨に照らせば、防御権の行使であっても他人に偽証という犯罪を行わせることまで正当化されるものではなく、被告人本人による教唆であっても偽証教唆罪の成立を妨げない。 2. 証人Aの供述内容は、被告人から虚偽証言の依頼を受け、これを承諾し、実際に虚偽陳述を行ったというA自身の行動を含む事実の経過である。これは被告人自身の自白そのものではなく、独立した証拠能力を有する証人の供述である。したがって、これを被告人と結びつける認定資料とすることは、自白の補強法則(刑訴法319条2項)の適用対象外であり、適法である。
結論
被告人に偽証教唆罪が成立し、偽証実行犯の証言を主要な証拠として有罪を認定した原判決に憲法・刑訴法違反はない。上告棄却。
実務上の射程
自己の事件に関する偽証教唆の可罰性を肯定する重要判例。答案上では、犯人蔵匿罪等と同様に「防御権の濫用」として構成する際の根拠となる。また、共犯者の供述が「自白」に含まれるかという論点に対し、非共同被告人(本犯)の証言については補強証拠不要とする確立した実務の立場を示す。共同被告人の場合は別途検討を要する点に注意。
事件番号: 昭和30(あ)2001 / 裁判年月日: 昭和32年11月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に自己の刑事事件について黙秘権があるとしても、他人に虚偽の証言をすることを教唆した場合には、偽証教唆罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が自己の刑事事件に関し、弁護人の申請に基づき証人として出廷した者(A)に対し、虚偽の証言をするよう働きかけた。Aは、午前の公判で尋問を終了し、午後の公判…