一件記録によれば、原審弁護人は刑訴三五五条に基き被告人のために原判決に対し、上告の申立をしたのであるが当裁判所からの弁護人選任についての照会に対し、被告人は書面を以つて当裁判所に対し原判決に服し、上告の意思なき旨を回答し且つ何故に事件が上告されたか従つて右弁護人の上告申立を全然知らないことが明認されるのである。されば、原審弁護人の本件上告は被告人の明示した意思に反したこととなり、結局本件上告は不適法なものといわなければならぬ。
弁護人の上告申立が被告人の明示した意思に反する例
刑訴法41条,刑訴法355条,刑訴法356条
判旨
弁護人が刑訴法355条に基づき被告人のために上告を申し立てた場合であっても、被告人が上告の意思がないことを書面で明示したときは、当該上告は被告人の意思に反するものとして不適法となる。
問題の所在(論点)
弁護人が被告人のために行う独自の上告申立が、事後的に判明した被告人の「上告の意思がない」という明示の意思に反する場合、当該上告申立は有効か。
規範
刑訴法355条に基づく弁護人の上告申立権は被告人のためになされるものであるが、同法356条により、被告人の明示した意思に反してこれを行うことはできない。
重要事実
原審弁護人が、被告人のために原判決に対し上告を申し立てた。しかし、最高裁判所からの照会に対し、被告人は書面をもって「原判決に服し、上告の意思はない」旨を回答した。また、被告人は弁護人が上告を申し立てた事実自体を全く知らなかった。
あてはめ
本件において、被告人は最高裁判所に対し、書面により原判決を甘受し上告の意思がないことを明確に表明している。弁護人の上告申立について被告人が全く知らなかったという事情に照らせば、弁護人による上告は「被告人の明示した意思に反したこと」に他ならないと評価される。
結論
被告人の明示した意思に反する弁護人の上告は不適法であり、棄却されるべきである。
実務上の射程
弁護人の独立上告権(刑訴法355条)が被告人の明示の意思(同法356条)によって制限されることを示す典型例。被告人が上告を望まないことが事後的に明確になった場合の処理(刑訴法385条1項の準用)として参照される。
事件番号: 昭和27(あ)2190 / 裁判年月日: 昭和27年10月16日 / 結論: 棄却
何等上告の趣意を記載していない上告趣意書(家庭の都合で上告した旨記載)は、適法な上告趣意書とは認めることができないから判断を与える必要がない。