判旨
被告人自身が上告を提起した場合において、原審の弁護人が上告審における弁護人選任届を提出せずになした上告趣意書の提出は、権限のない者による不適法なものとして無効である。
問題の所在(論点)
被告人が自ら上告を提起した事案において、原審の弁護人が上告審での弁護人選任届を提出せずに差し出した上告趣意書は、刑事訴訟法上の有効な書面として認められるか。換言すれば、権限のない者による上告趣意書の提出が、同法386条1項1号の「上告趣意書を差し出さないとき」に該当するか否かが問題となる。
規範
上告審において有効な上告趣意書を提出するためには、提出者が上告審における正当な提出権限を有している必要がある。具体的には、原審の弁護人が上告趣意書を提出する場合であっても、被告人自身による上告提起がなされた後であれば、当該弁護人は改めて上告審における弁護人としての選任を受け、選任届を提出していなければならない。
重要事実
被告人自身が上告を提起した。これに対し、被告人の原審弁護人が「上告趣意書」と題する書面を提出したが、当該弁護人は本件上告を自ら提起した者ではなく、また、上告審における弁護人選任届も提出されないまま上告趣意書提出期間が経過した。
あてはめ
本件において、上告を提起したのは被告人自身であり、原審弁護人ではない。加えて、当該原審弁護人を上告審の弁護人に選任する旨の選任届は、上告趣意書の提出期間内に提出されていない。したがって、当該書面は「なんら権限のない者」によって提出されたものと評価せざるを得ず、法的に有効な提出とは認められない。その結果、期間内に適法な上告趣意書が提出されなかったものと解される。
結論
本件上告は不適法である。上告趣意書提出期間内に有効な上告趣意書が差し出されなかったものとして、刑訴法414条、386条1項1号に基づき棄却される。
事件番号: 昭和39(あ)2533 / 裁判年月日: 昭和40年9月22日 / 結論: 棄却
本件上告趣意書提出期間内である昭和四〇年一月二〇日被告人の原審弁護人酒井祝成から「上告理由書」と題する書面が提出されているけれども、本件上告は被告人自身により提起されたもので、右原弁護人が提起したものでないことおよび同人を当審における弁護人に選任する旨の弁護人選任届は、遂に提出されていないことを認めることができる。して…
実務上の射程
弁護人の代理権の範囲および上告審における選任の要否に関する基本的事例である。被告人が自ら上告した場合には、原審弁護人の地位が当然には上告審に承継されないことを示しており、手続的要件の厳格な遵守を求める実務上の指針となる。
事件番号: 昭和43(あ)2380 / 裁判年月日: 昭和44年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当審の弁護人として選任されておらず、かつ原審弁護人の資格で自ら上告申し立てを行っていない者が連名で記載した上告趣意書は、適法に選任された弁護人の上告趣意書としてのみ取り扱われる。 第1 事案の概要:被告人の弁護人として荒木宏弁護士が選任されていた。上告趣意書には酉井善一弁護士も連名で記載されていた…
事件番号: 昭和24(れ)1028 / 裁判年月日: 昭和29年7月7日 / 結論: 棄却
一 自ら上告申立をした原審弁護人が上告趣意書提出期間内にその資格で上告趣意書を提出した場合でも、右上告趣意は審理の対象とさるべきものである。 二 上告趣意書提出期間内に、原審弁護人が、その資格で上告趣意書を提出した場合でも、裁判の時まで上告審の弁護届が追完されたときは、右上告趣意は拒否さるべきではなく、審理するを相当す…