本件上告趣意書提出期間内である昭和四〇年一月二〇日被告人の原審弁護人酒井祝成から「上告理由書」と題する書面が提出されているけれども、本件上告は被告人自身により提起されたもので、右原弁護人が提起したものでないことおよび同人を当審における弁護人に選任する旨の弁護人選任届は、遂に提出されていないことを認めることができる。してみれば右原審弁護人により提出された上告趣意は、何ら権限のない者の提出に係り不適法であるから、本件においては、上告趣意書提出期間内に有効な上告趣意書が差し出されなかつたことに帰する。
有効な上告趣意書が提出されなかつたとされた事例。
刑訴法414条,刑訴法376条,刑訴法32条2項
判旨
被告人自身が提起した上告において、原審弁護人が提出した上告趣意書は、当該弁護人が当審の弁護人として選任されていない限り、権限のない者による不適法な提出となる。
問題の所在(論点)
被告人が自ら上告を提起した場合において、原審弁護人が当審の弁護人選任届を提出せずに差し出した上告趣意書は、刑事訴訟法上の有効な上告趣意書の提出といえるか。
規範
上告趣意書を提出し得る者は、適法な上告申立権者または選任された弁護人に限られる。原審弁護人の上告提起権は、被告人が上告を提起した場合には当然に及ぶものではなく、また、控訴審における弁護人の地位は特段の事情がない限り終結により消滅するため、上告審において有効な弁護活動を行うには、改めて当審における弁護人選任届が提出される必要がある。
重要事実
被告人自身が上告を提起した事案において、上告趣意書提出期間内に「上告理由書」が提出された。しかし、提出者は被告人の原審弁護人であり、当該弁護人が本件上告を提起した事実はなかった。また、当該弁護人を当審における弁護人に選任する旨の弁護人選任届も提出期間内に提出されることはなかった。
あてはめ
本件では、上告は被告人自身によって提起されており、原審弁護人が提起したものではない。さらに、当該原審弁護人を当審の弁護人として選任する手続(弁護人選任届の提出)もなされていない。したがって、当該弁護人は当審において訴訟行為を行う権限を有しておらず、その者が提出した書面は何ら権限のない者による提出といわざるを得ない。結果として、期間内に有効な上告趣意書が提出されなかったものと評価される。
結論
上告趣意書の提出は不適法であり、上告趣意書提出期間内に有効な書面が差し出されなかったものとして、上告を棄却すべきである。
実務上の射程
弁護人の代理権の範囲と、審級ごとの弁護人選任の必要性を確認する基本判例である。被告人本人が上告した際に、弁護人が従前通りの認識で選任届を失念して書面を提出しても救済されないという実務上の厳格な形式性を明示している。答案上は、弁護人の訴訟行為の有効性を論じる際の前提として活用できる。
事件番号: 昭和43(あ)2380 / 裁判年月日: 昭和44年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当審の弁護人として選任されておらず、かつ原審弁護人の資格で自ら上告申し立てを行っていない者が連名で記載した上告趣意書は、適法に選任された弁護人の上告趣意書としてのみ取り扱われる。 第1 事案の概要:被告人の弁護人として荒木宏弁護士が選任されていた。上告趣意書には酉井善一弁護士も連名で記載されていた…
事件番号: 昭和43(あ)2531 / 裁判年月日: 昭和44年9月4日 / 結論: 棄却
第一審判決後被告人の妻によつて選任された弁護人には、被告人のため控訴申立をする権限がない。
事件番号: 昭和47(あ)1296 / 裁判年月日: 昭和48年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本決定は、上告趣意が単なる事実誤認、法令違反、量刑不当の主張にすぎず、刑訴法405条の上告理由に該当しないとして上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:弁護人は、下級審の判断に対し、事実誤認、単なる法令違反、および量刑不当を理由として上告を申し立てた。なお、事案の具体的な犯罪事実等については…
事件番号: 昭和44(あ)2556 / 裁判年月日: 昭和45年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意が原判決を具体的に論難するものではなく、刑事訴訟法405条の上告理由に該当しない場合には、適法な上告理由とは認められず上告は棄却される。 第1 事案の概要:本件の上告人(被告人側)は、原判決に対して違憲の主張等を含む上告趣意を提出したが、その内容は原判決の具体的な判断や手続きを的確に論難す…