一 自ら上告申立をした原審弁護人が上告趣意書提出期間内にその資格で上告趣意書を提出した場合でも、右上告趣意は審理の対象とさるべきものである。 二 上告趣意書提出期間内に、原審弁護人が、その資格で上告趣意書を提出した場合でも、裁判の時まで上告審の弁護届が追完されたときは、右上告趣意は拒否さるべきではなく、審理するを相当する。 三 公務員たる鉄道係員(駅助役)の執務中、同係員の脅迫してその職務の執行を妨害した場合には、一個の行為にして刑法第九五条と鉄道営業法第三八条との二個の罪名に触れるものとして、重き前者の刑を以つて処断すべきである。
一 上告申立をした原審弁護人がその資格で提出した上告趣意書の効力 二 上告趣意書提出期間後に上告審の弁護届を提出した原審弁護人が右期間内に提出した上告趣意書の効力 三 刑法第九五条と鉄道営業法第三八条との関係
旧刑訴法379条,旧刑訴法423条,旧刑訴法41条1項,旧刑訴法42条,刑法54条,刑法95条,鉄道営業法38条
判旨
原審弁護人は被告人のために上告申立をすることができる以上、これと一体不可分の関係にある上告趣意書の提出も認められる。また、上告趣意書提出後に当審弁護人としての選任届が提出された場合であっても、弁護人選任の追完を認め、当該上告趣意書を審理の対象とすべきである。
問題の所在(論点)
原審弁護人が被告人のためにした上告趣意書の提出は有効か。また、上告趣意書提出後に当審弁護人の選任届が提出された場合、その瑕疵は追完されるか。
規範
1. 上告申立権を有する原審弁護人(旧刑訴法379条)は、上告申立と本質的に一体不可分の関係にある上告趣意の提出も認められる。事案に精通した原審弁護人にこれを許すことは被告人の人権保護の観点からも妥当である。 2. 弁護人選任届は、裁判の時までに追完することが可能である。したがって、提出期間内に提出された原審弁護人名義の上告趣意書は、その後に当審弁護人の選任届が提出されれば、有効なものとして審理の対象となる。
重要事実
被告人および原審弁護人の両名から上告が申し立てられた事件において、被告人本人は期間内に上告趣意書を提出しなかったが、原審弁護人は期間内に提出した。その後、当該原審弁護人が当審弁護人として選任された旨の選任届が本件審理中に提出された。このような状況下で、原審弁護人の提出した上告趣意書を有効なものとして審理できるかが争われた。なお、本件は旧刑訴法下の事件である。
あてはめ
原審弁護人は法により上告申立権を認められており、不服理由の提示である上告趣意の提出は申立行為と一体不可分である。実質的にも事案を熟知する原審弁護人に趣意書提出を認めることは被告人の利益に適う。本件では、原審弁護人が期間内に趣意書を提出しており、その後に当審弁護人としての選任届が提出されている。弁護人選任の欠缺は判決時までに追完可能であると解されるため、本件趣意書は適法なものとして受理すべきである。
結論
原審弁護人が提出した上告趣意書は有効であり、審理の対象とすべきである。本件上告については、趣意書の内容を検討した結果、上告理由に当たらないため棄却する。
実務上の射程
現行刑訴法下においても、原審弁護人の上告申立権(355条)に伴う書面提出の有効性や、選任届の追完可能性を論じる際の基礎となる判例である。特に、弁護権の不当な制限を避け、実質的な被告人保護を図るべき局面で引用すべきである。
事件番号: 昭和43(あ)544 / 裁判年月日: 昭和43年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人自身が上告を提起した場合において、原審の弁護人が上告審における弁護人選任届を提出せずになした上告趣意書の提出は、権限のない者による不適法なものとして無効である。 第1 事案の概要:被告人自身が上告を提起した。これに対し、被告人の原審弁護人が「上告趣意書」と題する書面を提出したが、当該弁護人は…
事件番号: 昭和29(あ)2318 / 裁判年月日: 昭和29年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審で主張せず、原審が判断していない第一審手続の法令違反を上告理由とすることはできない。 第1 事案の概要:被告人が第一審判決に対し控訴したが、控訴審において第一審手続の法令違反について主張しなかった。控訴審判決(原判決)後、被告人は第一審手続に法令違反があるとして上告を申し立てた。なお、原判決…
事件番号: 昭和25(あ)108 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護人が自ら控訴趣意書を提出せず、口頭で他の弁護人の控訴趣意書を援用することは、刑事訴訟法上許されない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人が、定められた期間内に自ら控訴趣意書を提出せず、口頭によって他の弁護人が提出済みの控訴趣意書の内容を自己の主張として援用した事案である。 第2 問題の所在(論点…
事件番号: 昭和27(あ)5279 / 裁判年月日: 昭和28年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不可分一体の関係にある供述については、その一部のみを切り離して証拠として採用することは許されないが、本件においては原判決が不利益な部分のみを恣意的に採用した事実は認められない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、原判決が被告人の供述のうち不可分一体となっている内容から、被告人に不利益な部分のみを…