一 起訴状冒頭に「被告人は博徒の親分である」旨の被告人の経歴を示すことは、裁判官に予断を生ぜしめるおそれある事項の記載にあたらない。 二 所論伝聞にわたる点は、原判決説示のごとく記録に照しその供述中如何なる部分が伝聞にわたるかを判断するに難くはないから、起訴法違反も認められない。註。証拠の標目を掲げるに当り(各伝聞にわたる点を除く)と表示したもの。
一 起訴状に被告人の経歴を記載することと裁判官の予断 二 証拠の一部に伝聞に係るものがある場合の証拠説明の程度
刑訴法256条6項,刑訴法335条1項
判旨
起訴状に被告人の前科や経歴を記載することは、それが公訴犯罪事実の構成要件や内容をなす場合、または裁判官に予断を生じさせるおそれがない場合には、起訴状一本主義に反せず適法である。
問題の所在(論点)
起訴状に被告人の前科や特定の社会的地位(経歴)を記載することが、刑事訴訟法256条6項が禁ずる「裁判官に事件につき予断を生じさせるおそれのある書類その他の物」の添付・引用に準じ、起訴状一本主義に違反しないか。
規範
起訴状一本主義(刑事訴訟法256条6項)の趣旨は、裁判官に予断を生じさせないことにある。したがって、被告人の前科や経歴の記載であっても、①公訴犯罪事実の構成要件となっている場合、②公訴犯罪事実の内容をなしている場合、または③被告人の経歴を示したもので裁判官に予断を生じさせるおそれがない事項に当たる場合には、これを起訴状に記載することは許容される。
重要事実
被告人が起訴された際、第一の起訴状冒頭に脅迫の犯罪事実に関連する記載があり、第二の起訴状冒頭には「被告人は博徒の親分であるが」との記載があった。弁護人は、これらの記載が裁判官に予断を生じさせるものであり、起訴状一本主義に違反すると主張して上告した。
あてはめ
第二の起訴状における「博徒の親分」との記載は、単に被告人の経歴を示したものにすぎず、裁判官に予断を生じさせるおそれのある事項には当たらない。また、第一の起訴状における所論の記載(具体的な内容は判決文からは不明)は、本件脅迫の犯罪事実の内容そのものを構成する要素であると認められる。したがって、これらは公訴犯罪事実を特定し示すために必要な記載範囲に含まれる。
結論
本件各起訴状の記載は、いずれも刑事訴訟法256条6項に違反せず適法である。
実務上の射程
起訴状一本主義の限界を画した重要判例である。答案上では、前科等の記載が「公訴事実の特定に必要な範囲」か、あるいは「予断を生じさせる不当な記載」かを区別する基準として用いる。特に常習累犯窃盗や、前科を背景とした脅迫事件など、前科・経歴自体が犯罪の性質を基礎付ける事案において、記載の適法性を肯定する根拠として引用すべきである。
事件番号: 昭和26(あ)2144 / 裁判年月日: 昭和26年12月18日 / 結論: 棄却
一般の犯罪事実を起訴状に記載するに当り、犯罪事実と何ら関係がないのに拘らず、被告人の悪性を強調する趣旨で被告人に前科数犯あることを掲げるごときは、刑訴二五六條六項の規定の趣旨から避くべきであることも論がないところである。しかし、本件で起訴された恐喝罪の公訴事実のように、一般人を恐れさせるような被告人の経歴、素行、性格等…
事件番号: 昭和26(あ)5087 / 裁判年月日: 昭和27年4月8日 / 結論: 棄却
「被告人は賭博恐喝等の前科数犯あり、その乾分数名と無為徒食し常に粗暴なる言動ある為世人の嫌忌畏怖して居るに乗じ恐喝せんことを企て」なる起訴状の記載は、恐喝罪の構成要件たる事実であるから、これを起訴状に記載したことは違法ではない(昭和二六年(あ)第二一四四号同年一二月一八日当裁判所決定、昭和二五年(あ)第一〇八九号同二七…