一般の犯罪事実を起訴状に記載するに当り、犯罪事実と何ら関係がないのに拘らず、被告人の悪性を強調する趣旨で被告人に前科数犯あることを掲げるごときは、刑訴二五六條六項の規定の趣旨から避くべきであることも論がないところである。しかし、本件で起訴された恐喝罪の公訴事実のように、一般人を恐れさせるような被告人の経歴、素行、性格等に関する事実を相手方が知つているのに乗じて恐喝の罪を犯した場合には、本件起訴状に所論のような被告人の経歴、素行、性格等に関し近隣に知られていた事実の記載があるからとて違法であるということはできない。
恐喝罪の公訴事実中に被告人の経歴素行性格等を記載した起訴状と刑訴第二五條第六項
刑法249條,刑訴法256條6項
判旨
起訴状に被告人の経歴や素行等を記載することは原則として起訴状一本主義に反するが、恐喝罪において犯行の手段方法を特定するために不可欠な事実である場合には、例外的に適法となる。
問題の所在(論点)
起訴状に被告人の悪性を推認させる経歴や素行の記載がある場合、刑訴法256条6項の起訴状一本主義に違反するか、あるいは同条3項の訴因特定の要請として適法とされるか。
規範
刑事訴訟法256条6項が定める起訴状一本主義の趣旨は、裁判官に事件につき予断を生じさせるおそれのある書類等の添付・引用を禁ずる点にある。したがって、犯罪事実と無関係に被告人の悪性を強調する目的で前科等を記載することは許されない。もっとも、同条3項が求める訴因の特定の要請から、犯罪の手段方法を明らかにするために必要不可欠な事実については、被告人の経歴、素行、性格等に関する事実であっても、起訴状への記載が許容される。
重要事実
被告人が恐喝罪で起訴された際、検察官は起訴状に被告人の経歴、素行、性格等が近隣に知られていた事実を記載した。これに対し弁護人は、当該記載が裁判官に予断を生じさせるものであり、起訴状一本主義を定める刑訴法256条6項に違反して公訴提起の手続が無効であると主張して上告した。
あてはめ
本件で起訴された恐喝罪の公訴事実においては、一般人を恐れさせるような被告人の経歴や素行を相手方が知っていることに乗じて畏怖させたという事情が認められる。このような経歴等を相手方が認識していたという事実は、恐喝の「手段方法」を具体的かつ明瞭にするために必要な事実であるといえる。したがって、訴因を明示するために「できる限り日時、場所、方法を以て罪となるべき事実を特定」しようとした結果としての記載であり、単なる悪性の強調には当たらない。
結論
本件起訴状の記載は、訴因の特定の範囲内であり、刑訴法256条6項に違反しない。したがって、公訴提起の手続を無効とせず、有罪を言い渡した原判決は適法である。
実務上の射程
起訴状一本主義の限界を画する重要判例である。答案では、原則として前科や性格の記載は予断を生じさせるため禁止されることを示しつつ、恐喝罪や強請など、その属性自体が犯行手段(脅迫・畏怖)の不可欠な要素となっている場合には、例外的に訴因特定の必要性から許容されるという論理構成で用いる。
事件番号: 昭和25(あ)262 / 裁判年月日: 昭和27年7月18日 / 結論: 棄却
一 起訴状および訴因追加請求書の各謄本が被告人に送達されていなくても、起訴の日に被告人が自ら弁護人を選任し、弁護人は裁判所書記官に請求して、起訴状および訴因追加請求書各謄本の送達を受け、第一審第一回公判も起訴の日から二箇月以内に開かれており、また起訴状謄本が弁護人に送達されてから同公判までに一箇月以上、訴因追加請求書が…