一 起訴状および訴因追加請求書の各謄本が被告人に送達されていなくても、起訴の日に被告人が自ら弁護人を選任し、弁護人は裁判所書記官に請求して、起訴状および訴因追加請求書各謄本の送達を受け、第一審第一回公判も起訴の日から二箇月以内に開かれており、また起訴状謄本が弁護人に送達されてから同公判までに一箇月以上、訴因追加請求書が同人に送達されてからでも同じく一箇月近くの余裕があつて、弁論準備のために十分の期間があつたものということができ、かつ右公判で被告人側から何の異議も申し立てていない場合には、前記のような刑訴第二七一条第一項、第三一二条第三項、刑訴規則第二〇九条第三項の不遵守は、未だ刑訴第四一一条を適用すべき事由とするにたらない。 二 本件公訴事実は、被告人が一般人を恐れさせるに足るような自己の性格、経歴及び素行等に関する事実を告知し、若しくは相手方が予ねて、そのような事実を知つて恐れをなしているのに乗じて金品、その他財産上の利益を受けるという方法によつて度々の恐喝を働いたというにあつて、被告人の性格、経歴及び素行等に関する事実は、本件では、犯罪事実と何等直接の関係のない事項ではなく、むしろ、その恐喝手段そのものゝ内容をなしている事柄であるといわなければならないから刑訴第二五六条末項に反しない。
一 起訴状および訴因追加請求書各謄本の被告人に対する不送達と刑訴第四一一条 二 恐喝罪の公訴犯罪事実中に被告人の性格、経歴及び素行等を記載することと刑訴法第二五六条第六項
刑訴法271条1項,刑訴法312条3項,刑訴法411条,刑訴法256条,刑訴規則209条3項,刑法249条
判旨
起訴状に被告人の悪性を強調する事実を記載することは原則として許されないが、それが恐喝罪の手段そのものを構成するなど犯罪事実と直接の関係がある場合には、起訴状一本通主義(刑訴法256条6項)の趣旨に反しない。
問題の所在(論点)
起訴状において、被告人の前科や素行等の悪性を記載することが、刑訴法256条6項が定める起訴状一本通主義に違反し、公訴棄却(刑訴法338条4号)の事由となるか。
規範
起訴状に公訴事実を記載するに際し、犯罪事実と直接の関係がないのに被告人の悪性を中傷強調する目的で、性格、経歴、素行等を記載することは、裁判官に予断を生じさせるおそれがあり、刑訴法256条6項(起訴状一本通主義)の趣旨に鑑み許されない。もっとも、それらの事実が犯罪事実と直接の関係を有し、構成要件の内容をなす事柄である場合には、記載することも許容される。
重要事実
被告人が恐喝罪等で起訴された際、起訴状の公訴事実冒頭に「被告人は賭博前科二犯を有し……町の不良青年仲間の親分格として横暴の限りを尽しているものである」との記載がなされた。被告人側は、これが犯罪事実と無関係な悪性の強調であり、予断を抱かせるものであるとして、起訴手続の違法を主張した。
あてはめ
本件の公訴事実は、被告人が一般人を畏怖させるに足りる自己の性格や素行を告知し、あるいは相手がそれを知って畏怖していることに乗じて財産上の利益を得たという恐喝の事案である。この場合、記載された被告人の性格、経歴、素行等は犯罪事実と無関係な事項ではなく、むしろ恐喝の手段(「脅迫」の具体的内容)そのものを構成している。したがって、これらを記載することは犯罪事実の特定・記述として必要であり、中傷目的の余事記載には当たらない。
結論
本件起訴状の記載は適法であり、起訴状一本通主義に違反しない。
実務上の射程
起訴状一本通主義の限界を画した重要判例である。答案上は、記載が「構成要件に該当する具体的事実の記述」として必要不可欠といえるか、あるいは「余事記載」にすぎないかを検討する際のメルクマールとなる。特に恐喝罪や常習犯の事案において、素行の記載が手段の一部として正当化される余地を示している。
事件番号: 昭和28(あ)3906 / 裁判年月日: 昭和33年5月20日 / 結論: 棄却
一 本件起訴状に被告人の経歴等に関する詳細な記載があるからといつてそれが刑訴法第二五六条第六項に違反するものであるということはできない 二 恐喝の手段として被害者に郵送された脅迫文書の趣旨が婉曲暗示的であつて、起訴状にこれを要約摘示するには相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状にそ…