一 本件起訴状に被告人の経歴等に関する詳細な記載があるからといつてそれが刑訴法第二五六条第六項に違反するものであるということはできない 二 恐喝の手段として被害者に郵送された脅迫文書の趣旨が婉曲暗示的であつて、起訴状にこれを要約摘示するには相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状にその文書の全文と殆んど同様の記載がなされても、その起訴状は刑訴法第二五六条第六項に違反しないものと解すべきである
一 被告人の経歴等と詳細な記載がある起訴状が刑訴法第二五六条第六項に違反しないとされた一事例 二 恐喝の手段として郵送された脅迫文書の殆んど全文が記載された起訴状と刑訴法第二五六条第六項
刑訴法256条,刑法249条
判旨
起訴状に犯罪の動機や経歴、あるいは脅迫文等の内容を記載しても、それが訴因の明示や犯罪構成要件の充足を明らかにするために必要不可欠な範囲であれば、起訴状一本主義を定める刑事訴訟法256条6項に違反しない。
問題の所在(論点)
起訴状における被告人の経歴等の記載、および犯罪の主要な手段である脅迫文の内容を詳細に引用する記載が、刑事訴訟法256条6項(起訴状一本主義)に違反するか。
規範
1. 犯罪の経緯や動機、被告人の経歴等の記載は、直ちに裁判官に予断を生ぜしめる事項とはいえず、公訴事実の特定等に必要な範囲であれば許容される。2. 証拠の内容引用について、起訴状には原則として証拠を添付・引用してはならないが、当該事実が訴因明示のため犯罪構成要件に該当する事実(又は密接不可分な事実)であり、かつ被告人の行為が罰条に該当することを明らかにするため必要である場合には、同条6項に違反しない。
重要事実
被告人は恐喝罪で起訴された。起訴状の冒頭には被告人の学歴、経歴、終戦後の定職の有無が記載されていた。また、公訴事実において、被告人が被害者に送付した内容証明郵便(脅迫文)の全文とほぼ同様の内容が詳細に引用されていた。弁護人は、これらの記載が裁判官に予断を生ぜしめるものであり、起訴状一本主義に違反し起訴無効であると主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人の経歴等の記載は、定職の有無等を含むが、これらは直ちに裁判官に不当な予断を生ぜしめるものとはいえない。2. 脅迫文の引用について、恐喝罪では「加害の通告」の具体的内容が犯罪構成事実そのものである。本件の脅迫文は婉曲的・暗示的な表現であり、単なる社交的質問か利得目的の脅迫かを判定するには、記載内容の解釈が不可欠である。このように、内容を具体的に摘示しなければ文書の趣旨が判明し難い特殊な場合には、全文に近い引用であっても要約と大差なく、被告人の防御に実質的不利益を及ぼさないため、許容される。
結論
本件起訴状の記載は、いずれも刑事訴訟法256条6項に違反せず、公訴提起は有効である。
実務上の射程
起訴状一本主義の例外を「訴因明示のための必要性」から認めるリーディングケースである。特に、名誉毀損や恐喝における「文言」が構成要件の核心をなす場合、要約が困難であれば詳細な引用も許容されるという判断枠組みを示す。ただし、必要性を超えた証拠の引用(例:自白の内容の逐一の記載等)は依然として許されない点に注意が必要である。
事件番号: 昭和25(あ)262 / 裁判年月日: 昭和27年7月18日 / 結論: 棄却
一 起訴状および訴因追加請求書の各謄本が被告人に送達されていなくても、起訴の日に被告人が自ら弁護人を選任し、弁護人は裁判所書記官に請求して、起訴状および訴因追加請求書各謄本の送達を受け、第一審第一回公判も起訴の日から二箇月以内に開かれており、また起訴状謄本が弁護人に送達されてから同公判までに一箇月以上、訴因追加請求書が…