起訴状冒頭に「被告人はA会B組組長であるが……」との記載があつても、右記載は被告人の経歴を示したもので、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項に当らない。
刑訴法第二五六条第六項にいわゆる予断事項にあたらないとされた事例。
刑訴法256条6項
判旨
起訴状に被告人の経歴を記載することは、それが裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項に当たらないのみならず、犯罪の手段・方法を明らかならしめるために必要な事実である場合には、起訴状一本主義(刑事訴訟法256条6項)に違反しない。
問題の所在(論点)
起訴状に被告人の前歴・経歴を記載することが、刑事訴訟法256条6項の定める起訴状一本主義に抵触し、無効な起訴とならないか。
規範
起訴状一本主義(刑事訴訟法256条6項)の趣旨は、裁判官に事件に対する予断を生じさせないことにある。したがって、起訴状に記載された事実が、①裁判官に予断を生ぜしめるおそれのない事項である場合、または②当該犯罪の構成要件や具体的態様(手段・方法等)を明らかならしめるために必要不可欠な事実であると認められる場合には、同条項に違反しない。
重要事実
被告人が恐喝罪で起訴された際、検察官は起訴状の冒頭において被告人の経歴に関する記載を行った。これに対し弁護人は、当該記載が裁判官に予断を生じさせ、憲法37条1項や刑訴法256条6項に違反するものであると主張して争った。
あてはめ
本件で起訴状に記載された被告人の経歴は、単に被告人の身上を示すにとどまり、それ自体が裁判官に不当な予断を与えるような性質の事項ではない。また、本件は恐喝事件であり、被告人がどのような経歴を有しているかは、被害者に対する畏怖行為の具体的内容や、恐喝の手段・方法を明確に特定するために必要不可欠な事実であると認められる。したがって、当該記載は起訴状一本主義を逸脱するものとはいえない。
結論
本件起訴状の経歴記載は刑訴法256条6項に違反せず、本件公訴提起は適法である。
実務上の射程
起訴状一本主義の限界(余事記載の許容性)に関する重要判例。恐喝罪や暴力法違反など、被告人の社会的背景や属性が犯行の態様(威圧の程度)に直接関わる事案では、一定の経歴記載が許容される傾向にある。ただし、構成要件に無関係な悪性格の立証目的であれば依然として本条違反となる点に注意して答案を構成すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)3906 / 裁判年月日: 昭和33年5月20日 / 結論: 棄却
一 本件起訴状に被告人の経歴等に関する詳細な記載があるからといつてそれが刑訴法第二五六条第六項に違反するものであるということはできない 二 恐喝の手段として被害者に郵送された脅迫文書の趣旨が婉曲暗示的であつて、起訴状にこれを要約摘示するには相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状にそ…