判旨
裁判所が被告人に弁護人選任の機会を与えたにもかかわらず被告人がそれを行わなかった場合に、裁判所が国選弁護人を選任し、その弁護人が被告人提出の控訴趣意に基づいて弁論を行った手続は、憲法及び刑事訴訟法に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が弁護人を選任しない場合に裁判所が行った国選弁護人の選任、および当該弁護人が被告人作成の書面に基づいて行った弁論手続が、被告人の防御権を侵害し、憲法や刑事訴訟法に違反するか。
規範
刑事訴訟における弁護人依頼権(憲法37条3項)の保障は、被告人に対して弁護人を選任する機会を平等に与えることをもって足りる。被告人が自ら弁護人を選任しない場合には、裁判所が職権で国選弁護人を選任し、その弁護人が被告人の意思を尊重しつつ適切な防御活動(控訴趣意に基づく弁論等)を行ったのであれば、被告人の権利保護に欠けるところはない。
重要事実
被告人は控訴審において、自ら弁護人を選任する機会を与えられていたが、これを行わなかった。そのため、原審(控訴審)は被告人のために職権で国選弁護人を選任した。選任された国選弁護人は、被告人自身が作成・提出した「控訴趣意書」と題する書面の内容に基づき、異議なく弁論を遂行した。被告人側は、このような弁護活動のあり方等が憲法違反や刑事訴訟規則238条違反に当たると主張して上告した。
あてはめ
本件では、原審は被告人に対し弁護人選任の機会を十分に与えており、被告人がこれを行使しなかったために国選弁護人を付したものである。この選任手続に不備はない。また、選任された弁護人は被告人の控訴趣意に基づいて弁論を行っており、実質的な防御の機会は確保されている。刑事訴訟規則238条の解釈としても、必ずしも弁護人が独自の判断のみで弁論しなければならないわけではなく、本件のような訴訟経過に鑑みれば、被告人の権利保護の要請は満たされているといえる。
結論
被告人に選任の機会を与えた上での国選弁護人の選任及びその弁論手続は適法であり、憲法違反等の上告理由は認められない。
実務上の射程
被告人が私選弁護人を選任しない場合の国選弁護人選任の適法性と、その弁護活動の形式(被告人の主張の代弁)の許容範囲を示す。被告人の意思を無視した強引な弁論ではなく、被告人が提出した書面に基づく弁論も有効な防御活動として認められることを示唆している。
事件番号: 昭和29(あ)792 / 裁判年月日: 昭和29年7月6日 / 結論: 棄却
論旨は、原審において国選弁護人は十分に弁護権を行使しなかつたと非難するが、弁護人は国選私選を問わず、控訴理由を見出し得ない場合でも強いてその理由を主張しなければならぬ義務を負うものではない。