仮りに、被告人の拘禁が不法であつても、その一事でその後における供述調書が強制、拷問又は脅迫による証拠能力のないものといえないことは、当裁判所屡次の判例とするところである。しかのみならず、本件逮捕状は、刑訴二一〇条所定の逮捕状であることが記録上明白であるから、本件逮捕による拘禁は不法とはいえない。
適法な緊急逮捕により拘禁された被告人の供述調書の証拠能力
刑訴法210条,刑訴法319条,刑訴法322条1項,憲法33条,憲法38条1項,憲法38条2項
判旨
不法な拘禁状態があったとしても、その一事をもって直ちにその後の供述調書が強制、拷問、脅迫によるものとして証拠能力を否定されるわけではない。本件では刑訴法210条の緊急逮捕手続に則っており、拘禁は適法であるため違憲の主張は前提を欠く。
問題の所在(論点)
不法な拘禁下で得られた供述調書の証拠能力の成否、および緊急逮捕手続の適法性が問題となった。
規範
拘禁が不法であったとしても、その事実のみから直ちにその後の供述調書が、憲法や刑事訴訟法で禁じられている強制、拷問、脅迫による任意性のないものとして証拠能力を失うと判断されるわけではない。供述の証拠能力は、その供述が任意になされたか否かという実質的観点から判断されるべきである。
重要事実
被告人が逮捕・拘禁された後に行われた供述調書について、弁護人は当該拘禁が不法であることを理由に、それに基づく供述調書には証拠能力がないと主張して上告した。しかし、記録によれば、当該逮捕は刑事訴訟法210条所定の緊急逮捕の手続に従って行われたものであった。
あてはめ
本件における被告人の逮捕は、刑事訴訟法210条に基づく緊急逮捕状によるものであり、その拘禁手続は適法である。したがって、前提となる拘禁の不法性自体が認められない。また、仮に拘禁が不法であったとしても、供述調書が強制や拷問等の任意性を疑わせる状況下で作成されたものでない限り、直ちに証拠能力が否定されるものではない。
結論
本件逮捕・拘禁は適法であり、不法な拘禁を前提とする供述調書の証拠能力否定の主張は理由がないため、上告を棄却する。
実務上の射程
違法収集証拠排除法則が確立する前の古い判例ではあるが、逮捕・勾留の違法が供述の任意性や証拠能力に及ぼす影響を検討する際の基礎的な考え方を示す。司法試験においては、手続の違法が重大か否か、および証拠排除の必要性の検討において、単なる拘禁の違法だけでなく、それが供述の任意性にどう影響したかを論点とする際に参照し得る。
事件番号: 昭和26(あ)2539 / 裁判年月日: 昭和26年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述調書が警察の誘導や暴行によって作成されたとの主張があっても、原審が当該調書を証拠として採用していない場合は、当該事由は適法な上告理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人が、警察における誘導や暴行等によって作成された供述調書に基づき有罪判決がなされたと主張して上告した事案。しかし、記…