原判決挙示の諸証拠で原審において証拠調べを経ていないものの中には極めて重要なものがあり、且つ証拠調べを経たことの明白な証拠のみでは原判決の事実を認定するに十分でないときは、刑訴四一一条に該当する。
証拠調をしない極めて重要な証拠を他の証拠と綜合して事実を認定した判決の違法と刑訴法第四一一条
旧刑訴法336条,新刑訴法411条
判旨
適法な証拠調べを経ていない証拠を事実認定の基礎とすることは許されず、そのような手続上の瑕疵がある判決は、他に認定を支えるに十分な証拠がない限り、著しく正義に反するものとして破棄を免れない。
問題の所在(論点)
適法な証拠調べを経ていない証拠を事実認定の基礎に用いることの可否、およびそのような瑕疵が刑訴法411条1号(判決に影響を及ぼすべき法令の違反)に基づき判決の破棄事由となるか。
規範
裁判所が事実を認定するにあたっては、適法な証拠調べを経た証拠によらなければならない。重要な証拠について適法な証拠調べがなされていない場合、または証拠調べを経た証拠のみでは犯罪事実の認定に十分でない場合には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、著しく正義に反するものと認められる。
重要事実
被告人が傷害致死罪で起訴された事案において、原審(控訴審)は、第一審の公判調書、受命判事による証人尋問調書、被告人の供述調書の一部、および押収書類を除く、多数の証拠を挙示して事実認定を行った。しかし、記録上、これら挙示された証拠の多くについて、適法な証拠調べが行われた形跡が認められなかった。
あてはめ
原判決が事実認定の基礎とした証拠のうち、適法な証拠調べを経ていないものの中には極めて重要なものが含まれている。一方で、記録上適法に証拠調べが行われたことが明らかな証拠(第一審調書等)のみを精査しても、原判決が認定した傷害致死の事実を認めるには不十分であるといわざるを得ない。したがって、証拠調べを経ない証拠によって事実を認定した手続的瑕疵は、結論を左右する重大なものであると評価される。
結論
原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
刑事訴訟における証拠裁判主義(刑訴法317条)の帰結として、適法な証拠調べ(304条以下)を欠く事実認定の違法性を指摘する際に用いる。実務上は、証拠目録と判決書を対照し、証拠調べ未了の証拠が事実認定の根幹に関わる場合に、著しく正義に反する法令違反として主張する指針となる。
事件番号: 昭和26(れ)1263 / 裁判年月日: 昭和26年12月7日 / 結論: 棄却
原判決は、被告人等は、原判示のごとく押収にかかる革帯(証第三号)樫棒(証第二号)及び繩(証第四号)を使用して、被害者に暴行を加えその結果、遂に死亡するに至らしめた事実を認定し、右認定の証拠として押収にかかる右革帯、樫棒及び繩の存在を判決に挙示しているにかかわらず、右物件については、原審公判において、適法に証拠調を施行し…