被告人のみから控訴した本件において第一審判決が懲役三月及び二年間右刑の執行を猶予する旨の言渡したのに対し、原判決がそれよりも軽い主刑即ち懲役二月、一年間執行猶予の言渡をしているのであるから、たとえ附加刑たる沒収に代るべき追懲につき原判決が第一審の言渡した額(百二拾円)よりも多い額(千五百円)と言渡したとしても、主文の全体から実質的に観察すれば、何ら不利益な変更はないと認められる。
第一審よりも軽い主刑と重い附加刑を言渡した第二審判決と不利益変更禁止
旧刑訴法403条
判旨
不利益変更禁止の原則における「重き刑」の判断は、判決主文の全体を実質的に観察して、被告人に不利益となるか否かによって決すべきである。主刑が軽減された場合、付加刑たる追徴額が増加したとしても、全体として被告人に不利益でなければ同原則に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、主刑を軽減しつつ追徴金を増額する変更が、刑事訴訟法上の不利益変更禁止の原則に抵触するか。また、その「重き刑」の判断基準は如何にあるべきか。
規範
刑事訴訟法402条(旧法403条)にいう「被告人が控訴をした事件…について、原判決の刑より重い刑を言い渡すことができない」との不利益変更禁止の判断基準は、単に個別の刑を比較するのではなく、判決主文の全体を実質的に観察し、原判決よりも被告人に不利益な場合を指すものと解する。
重要事実
被告人のみが控訴した事件において、第一審判決は懲役3月・執行猶予2年、および追徴金120円を言い渡した。これに対し、控訴審判決(原判決)は、主刑について懲役2月・執行猶予1年と言い渡したが、付加刑に代わるべき追徴金については、第一審の120円を上回る1,500円と言い渡した。被告人側は、追徴金の額が増加したことが不利益変更にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件では、原判決は第一審の懲役3月・執行猶予2年を、懲役2月・執行猶予1年へと減軽しており、主刑の点では被告人に有利に変更されている。付加刑たる没収に代わる追徴金については、120円から1,500円へと増額されているものの、主刑の減軽幅に照らせば、判決主文の全体を実質的に観察した場合、被告人にとって実質的な不利益があるとは認められない。
結論
被告人のみが控訴した本件において、主刑が軽減されている以上、追徴金が増額されたとしても全体として被告人に不利益な変更とはいえず、不利益変更禁止の原則には違反しない。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則における「刑」の比較が、主刑・付加刑の各項目ごとの形式的比較ではなく、実質的な全体評価(全体観察方式)によることを示した。答案上は、追徴や没収の有無・金額が変動した場合でも、主刑の有利な変更がそれを上回る「実質的不利益の不在」を論証する際の根拠となる。ただし、主刑が同一で追徴のみ増額される場合は不利益とされる可能性が高いため、比較対象の軽重を具体的に評価する必要がある。
事件番号: 昭和34(あ)2182 / 裁判年月日: 昭和37年6月18日 / 結論: 棄却
第一審が被告人を懲役一年(三年間執行猶予)に処するとともに、金五七七、八六六円六六銭を追徴する旨の判決を言い渡したのに対して、被告人から控訴の申立があつた場合、控訴審が右第一審判決を破棄し、被告人を懲役一〇月(三年間執行猶予)に処し、金六〇七、八六六円を追徴する旨の判決を言い渡したとしても、いまだ第一審判決を被告人の不…
事件番号: 昭和25(れ)1461 / 裁判年月日: 昭和25年12月22日 / 結論: 破棄自判
原判決の刑と第一審判決のそれとをくらべてみると両者は未決勾留日数を本刑に通算する点を除いてその他の部分はすべて同じであるが、前者は後者において本刑に通算せられた第一審の未決勾留日数中、六〇日をその本刑に算入していないこと論旨の指摘するとおりである。しからば原判決の刑は第一審判決の刑より重いこと明らかである。しかるに本件…