第一審が被告人を懲役一年(三年間執行猶予)に処するとともに、金五七七、八六六円六六銭を追徴する旨の判決を言い渡したのに対して、被告人から控訴の申立があつた場合、控訴審が右第一審判決を破棄し、被告人を懲役一〇月(三年間執行猶予)に処し、金六〇七、八六六円を追徴する旨の判決を言い渡したとしても、いまだ第一審判決を被告人の不利益に変更したものということはできない。
刑訴法四〇二条に違反しないとされた事例。
刑訴法402条
判旨
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)にいう「重い刑」に該当するか否かは、形式的な刑種や数量の比較のみならず、実質的見地から総体的に考察して判断すべきである。主刑の刑期が減ぜられた場合には、追徴金額が計算違いの修正により増額されても、全体として被告人に不利益な変更とはいえない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、主刑の刑期を短縮する一方で、計算違いの修正として追徴金額を増額することは、刑事訴訟法402条の「原判決の刑より重い刑を言い渡すことができない」という規定に違反するか。
規範
刑事訴訟法402条が規定する不利益変更禁止の原則における刑の軽重の判断は、単に形式的な刑種や数値の比較によるのではなく、宣告された刑の内容を実質的見地から総体的に考察して判断すべきである。主刑の刑期と付加刑、あるいは追徴のような処分を総合して、被告人にとって不利益な変更となるかを検討する。
重要事実
被告人Aらに対し、第一審が懲役1年・執行猶予3年および追徴金約57万7000円を言い渡した。これに対し被告人のみが控訴したところ、原審(二審)は懲役10ヶ月・執行猶予3年に減刑した一方で、第一審の計算違いを修正する形で追徴金額を約60万7000円に増額(約3万円の増加)して言い渡した。被告人側は、追徴金の増額が不利益変更禁止の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原審は第一審に比べて主刑である懲役刑の刑期を2ヶ月短縮している。追徴金の増額(約3万円)は、原審が新たな事実を認定したものではなく、第一審の明白な計算違いを是正したものである。主刑の刑期が減ぜられているという有利な変更の程度と、追徴金の微増という不利益を実質的見地から総体的に比較衡量すれば、刑全体として被告人に不利益な変更がなされたとは評価できない。したがって、本件は不利益変更禁止の原則には抵触しないといえる。
結論
主刑の刑期が減ぜられている場合には、追徴金額が若干増額されたとしても、総体的に考察して「重い刑」を言い渡したことにはならず、刑事訴訟法402条に違反しない。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則に関する基本的判例である。答案上は、追徴や没収と主刑が組み合わさった場合の軽重判断において、本判例を引用し「実質的・総体的考察」の規範を立てる。特に計算違いの修正に伴う微細な不利益と、主刑の有利な変更を比較衡量する場面で極めて有効な射程を持つ。
事件番号: 昭和33(あ)741 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
被告人が控訴をした事件について、控訴裁判所が第一審において有罪とした数十個の犯罪事実のうち一部分を無罪としながらなお第一審判決と同一の刑を被告人に科しても刑訴第四〇二条に違反しない。
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。