公職選挙法違反被告事件において、被告人のみが控訴をした場合、第一審が言い渡した追徴額のうち一部を控訴審でこれと同額の現金の没収に変更することは第一審判決を被告人の不利益に変更することにならない。
刑訴第四〇二条に規定するいわゆる不利益変更禁止の原則に反しない一事例
刑訴法402条,公職選挙法224条,刑法9条,刑法19条,刑法19条ノ2
判旨
被告人のみが控訴した事件において、第一審判決が言い渡した追徴を控訴審が没収と追徴に分割して変更しても、その総額が同一であれば、実質的に被告人に不利益とはならず、不利益変更禁止の原則に反しない。
問題の所在(論点)
被告人が控訴した事件において、第一審の追徴を控訴審が没収および追徴に変更することが、刑訴法402条の不利益変更禁止の原則に抵触するか。追徴と没収の性質の違いが実質的な不利益にあたるかが問題となる。
規範
刑訴法402条にいう「言渡しをした刑より重い刑を言い渡すことができない」か否かは、刑名等の形式のみによるべきではなく、第一・二審判決において言い渡された主文の全体を観察し、実質的に被告人に不利益か否かによって判断すべきである。特に、没収と追徴は、没収すべき物の全部または一部を没収できないときにその価額を徴収するという表裏一体の関係にある。したがって、その総額が同一である限り、追徴を没収に変更しても被告人の実質的な負担は不利益に変更されたとはいえない。
重要事実
被告人のみが控訴したところ、第一審判決は被告人から1万円を追徴するとした。これに対し控訴審判決は、第一審判決を破棄し、押収されていた1000円札9枚を没収し、残りの1000円を被告人から追徴すると変更して言い渡した。弁護人は、第一審で追徴とした金員の一部を控訴審で没収に変更することは、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
第一審と控訴審を比較すると、被告人から徴収される総金額は1万円で同一である。第一審が全体を追徴としたのに対し、控訴審がその一部を没収とし残部を追徴としたのは、形式的には新たに没収という刑を言い渡したように見えるが、これは名義上の区別に過ぎない。没収と追徴が表裏一体の関係にあることに鑑みれば、総額が同一である以上、被告人が失う財産的価値に変わりはなく、実質的に被告人の利害が損なわれたとは認められない。よって、本件の変更は実質的な不利益をもたらすものではないといえる。
結論
本件の言い渡しは刑訴法402条に違反しない。したがって、原判決を維持し上告を棄却するのが相当である。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則における「刑の重さ」を実質説で判断する立場を鮮明にした判例である。答案上は、追徴から没収への変更だけでなく、刑名の変更や執行猶予の有無などが問題となる場面で、主文全体を比較して実質的な不利益を検討する際のリーディングケースとして活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3438 / 裁判年月日: 昭和30年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審が自ら事実審理を行わずに、刑事訴訟法400条但書に基づき第一審判決を変更して被告人に不利益な判決を言い渡すことは、直ちに違法とはいえない。 第1 事案の概要:被告人が公職選挙法違反等の罪に問われた事案。第一審判決に対し、控訴審において裁判所が事実審理を直接実施することなく、刑事訴訟法400条…