被告人が第二審公判において第一審公判における内容上異る供述をしていることは所論のとおりであり、しかも前者は釈放後の供述であり後者は拘束中の供述ではあるが、唯それだけの事由で原審が前者を斥け後者を採用したことを目して違法であると即断することはできない。
第二審における供述と内容相異る第一審の供述を採用することの適否
旧刑訴法337条
判旨
被告人が公判段階で供述を翻した場合であっても、事実審が証拠の取捨選択に関する広範な裁量権に基づき、勾留中の第一審供述を採用して釈放後の控訴審供述を排斥することは、直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
被告人が公判段階で先行する自白供述を翻した場合において、裁判所が「拘束中の第一審供述」を信憑性ありとして採用し、「釈放後の控訴審供述」を排斥することは、証拠裁判主義および自由心証主義(刑事訴訟法318条)の観点から許されるか。
規範
事実認定における証拠の取捨選択は、原則として事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。供述が拘束中になされたか釈放後になされたか、あるいは裁判官の尋問に対する応答としてなされたかといった事情があるとしても、その一事をもって直ちに自白が裁判官への迎合や真実に反するものと断定されるわけではなく、裁判所は諸般の事情を総合して証拠価値を判断できる。
重要事実
被告人Aら(共謀共同正犯が争点となった事案)は、第一審の公判において犯罪事実を認める供述をしていた。しかし、控訴審において被告人らは釈放された後に供述を翻し、第一審での供述は拘束下で裁判官に迎合してなされた真実に反する自供であると主張した。原審(控訴審)は、第一審の公判調書の記載を証拠として採用し、控訴審での翻意後の供述を排斥して有罪判決を維持したため、被告人側が採証法則の違反を理由に上告した。
あてはめ
本件において、被告人らが第一審と第二審で内容の異なる供述をしていることは事実である。しかし、第一審の供述が拘束中になされ、第二審の供述が釈放後になされたという形式的な状況のみをもって、原審が後者を斥け前者を採用したことを違法と即断することはできない。また、第一審の供述が裁判官の訊問に答える形でなされたものであっても、それが当然に裁判官への迎合であり真実に反するとまでは言えない。したがって、原審がその裁量権の範囲内で第一審の供述を採用し、共謀の事実を認定したことに不合理な点は認められない。
結論
本件各上告を棄却する。原審の証拠取捨および事実認定は適法な裁量権の範囲内であり、採証法則に違反しない。
実務上の射程
自白の任意性・信憑性が争われる場面において、供述環境の変化(拘束か釈放か)だけで供述の優劣が自動的に決まるものではないことを示す。答案上は、自由心証主義の論証において、事実審の合理的な推認・評価が維持される限界事例の一つとして参照できる。特に、公判供述の変遷がある場合に、どの時点の供述を重視すべきかを認定する際の裁量の幅を裏付ける判例として機能する。
事件番号: 昭和26(あ)1856 / 裁判年月日: 昭和26年9月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか否かは、勾留状の執行から自白に至るまでの期間や公判手続の経過、証拠同意の有無等を総合して判断される。不当に長い勾留後の自白でないことが自明であり、自白の任意性に疑いがない場合には、証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被…