判旨
被告人の自白以外に、自白に照応する内容の被害届が存在する場合、当該被害届は自白の補強証拠となり得るため、憲法38条3項(および刑訴法319条2項)の「唯一の証拠」には当たらない。
問題の所在(論点)
被害届の記載内容は、被告人の自白に対する補強証拠となり得るか。また、自白以外の証拠として被害届が存在する場合に、憲法38条3項の「自己に不利益な唯一の証拠」に該当するか。
規範
憲法38条3項および刑訴法319条2項の趣旨は、自白の真実性を担保し、誤判を防止することにある。したがって、被告人の自白を補強する証拠は、自白と独立した証拠であって、自白に係る犯罪事実の真実性を裏付けるに足りるものであれば足りる。被害届のような書面であっても、その記載内容が自白と照応し、これを実質的に補完するものであれば、補強証拠としての適格性を有する。
重要事実
被告人は窃盗罪等に問われた事案において、被告人作成名義の始末書により犯行を自白した。これに対し、証拠として被害者から提出された「被害金十三万余円」等の記載がある被害届が提出されていた。被告人側は、実質的に自白のみによって有罪とされたものであるとして、補強証拠の欠如を理由に上告した。
あてはめ
本件において、原判決は被告人の始末書(自白)だけでなく、公判廷での供述および被害届の記載を証拠としている。この被害届には被害金額等の具体的な犯罪事実が記載されており、その内容は被告人の自白内容と密接に照応している。このように自白と内容が合致する客観的な被害の訴えが存在することは、自白の真実性を裏付けるに足りる。したがって、本件被害届は補強証拠としての機能を有しており、証拠構造として自白のみに依存しているとはいえない。
結論
被告人の自白に照応する被害届は補強証拠となり得るため、本件は自白を唯一の証拠としたものとは認められず、憲法38条3項等に違反しない。
実務上の射程
補強証拠の適格性に関する極めて初期の判例。被害届が伝聞証拠として証拠能力を有することを前提として、その証明力の問題(補強証拠たり得ること)を示している。答案上は、補強証拠の要否や範囲が問題となる場面で、客観的な状況を示す書面が自白の真実性を担保し得ることを指摘する際に参照できる。
事件番号: 昭和26(あ)500 / 裁判年月日: 昭和27年7月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白のみで有罪とすることは憲法38条3項に抵触するが、自白の真実性を保障するに足りる補強証拠が存在する場合には、当該自白を唯一の証拠として事実認定をしたことにはならず合憲である。 第1 事案の概要:被告人が犯行を認める自白をしていたが、第一審判決は当該自白のみを証拠としたのではなく、別に存…
事件番号: 昭和28(あ)3135 / 裁判年月日: 昭和28年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠は、必ずしも犯罪事実の全部を直接証明するものである必要はなく、自白の真実性を担保し得るものであれば足り、被害者の供述書や証人の供述も補強証拠となり得る。 第1 事案の概要:被告人は、窃盗または詐欺等の罪に問われていた。被告人は自白をしていたが、弁護人は自白を唯一の証拠として有罪を認定…