判旨
被告人の供述が有罪認定の唯一の証拠であるとの主張に対し、判例は他の間接証拠や証人尋問の結果を総合すれば犯罪事実の認定が可能であるとし、補強証拠の要否にかかわらず実質的な証拠能力を認めた。
問題の所在(論点)
被告人の自白または検察官面前調書が実質的に唯一の証拠となっている場合に、他の証拠を総合して有罪認定を行うことが許容されるか。証拠の取捨選択における原審の裁量の範囲が問題となる。
規範
有罪判決を下すに際し、特定の供述証拠が唯一の証拠であるか否かは、公判廷における供述や他の証人による供述、その他の客観的事実等を総合して判断されるべきであり、これらを総合して判示事実が肯認できる場合には、証拠の取捨選択は原審の裁量に属する。
重要事実
被告人Aが検事に対し行った聴取書の内容が、原判決の有罪認定において実質上唯一の証拠となっていると弁護人が主張した事案。原審では、検事による欺瞞や強制の疑いが主張されたほか、被告人がBから8万円を借り受け返済していない旨の公判供述、相被告人Bの供述、証人Cの供述調書などが証拠として取り調べられていた。
あてはめ
本件では、問題となっている検事に対する聴取書を除外したとしても、昭和22年1月に被告人がBから金員を借受け返済していない旨の被告人自身の公判供述が存在する。さらに、相被告人Bの公判供述や証人Cの公判調書における供述等も存在する。これらを総合すれば、検事に対する供述記載を待たずとも判示事実を肯認するに足りる。したがって、特定の証拠が唯一の証拠であるとの主張は前提を欠き、証拠判断の合理性の範囲内といえる。
結論
被告人の検事に対する供述以外に、公判廷での自白に近い供述や関係者の供述等が存在するため、有罪認定は適法であり、上告は棄却される。
実務上の射程
自白の補強法則(憲法38条3項、刑訴法319条2項)が意識される場面において、何が「補強証拠」になり得るか、あるいは「唯一の証拠」にあたらないかを判断する際の視点を提供する。公判供述や他者の供述を総合することで、自白の証明力を補い、または独立して事実を認定できることを示す実務的な例として活用できる。
事件番号: 昭和43(あ)1592 / 裁判年月日: 昭和44年9月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の供述は被告人の自白に対する補強証拠となり得るとともに、補強証拠は犯罪事実のすべてについて存在する必要はなく、客観的要件の確証があれば主観的要件については被告人の自白のみで足りる。 第1 事案の概要:被告人の有罪判決において、被告人の自白を補強する証拠として共犯者の供述が用いられた事案。被告…