判旨
自白の補強証拠は犯罪事実の真実性を保障するものであれば足り、主観的要件については自白のみで認定可能である。また、傭主の管理下にある物品を雇い人が持ち出す行為は、占有が傭主に帰属するため、窃盗罪を構成する。
問題の所在(論点)
1.憲法38条3項および刑訴法319条2項における補強証拠の要否に関し、主観的要素である「知情」の点について自白のみで認定できるか。2.雇用関係にある者が傭主の管理物を持ち出した場合、占有は誰に帰属し、いかなる罪責を負うか。
規範
1.補強証拠の範囲について、証拠は犯罪事実のすべての点について存在する必要はなく、実質的に犯罪事実の真実性を保障するものであれば足りる。したがって、故意等の主観的要素については補強証拠を要せず、自白のみで認定できる。2.占有の帰属について、上下の主従関係にある者の間では、原則として上位者に占有が認められ、下位者は占有の補助者にすぎない。
重要事実
被告人は進駐軍に傭主として雇用されていた。被告人は、進駐軍の管理下にあったガソリンを抜き取って持ち出した。また、別の被告人は、贓物罪(現在の組織的犯罪処罰法等に相当する贓物寄託等)における知情(故意)の点について、自白以外の直接的な補強証拠がない状態で有罪とされた。
あてはめ
1.補強証拠は、自白が架空のものでないことを保障するために要求されるものであるから、客観的な罪跡が存在すれば足りる。贓物罪における知情のごとき内心的事実は、性質上、客観的証拠による裏付けが困難であり、他の犯罪事実の真実性が保障されている以上、自白のみで認定しても不当ではない。2.被告人は進駐軍という傭主の指揮監督下で労務に従事していたにすぎない。ガソリンの事実上の支配は依然として進駐軍(傭主)に属しており、被告人は単なる占有補助者である。したがって、被告人がこれを取り出した行為は、進駐軍の占有を侵害する奪取行為にあたる。
結論
1.主観的要素については自白のみで認定可能であり、原判決に違法はない。2.被告人の所為は横領罪ではなく、窃盗罪が成立する。
実務上の射程
憲法上の補強法則の範囲を画定した重要判例。実務上、補強証拠は客観的事実について必要とされるが、故意・目的等の主観的要素には不要であるとする「実質説」の根拠として頻用される。また、占有の帰属における「上下主従関係」の判断枠組みを示す際、占有補助者の法理として窃盗と横領の区別論に用いることができる。
事件番号: 昭和25(あ)1048 / 裁判年月日: 昭和26年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項及び刑訴法319条2項にいう補強証拠は、犯罪事実の客観的側面に及んでいれば足り、犯人が被告人であること(犯人性)については自白のみで認定しても違憲・違法ではない。 第1 事案の概要:被告人の自白が存在し、かつ自白以外の証拠(補強証拠)も存在していた。第一審及び原審は、これらの証拠を総…