判旨
憲法25条1項の生存権規定を根拠として、食糧窮迫を理由とした食糧の闇買受行為の違法性が当然に阻却されることはなく、刑罰の適用を免れるものではない。
問題の所在(論点)
食糧窮迫という生存の危機に際して行われた食糧の買受行為について、憲法25条1項を根拠として、刑法上の違法性が阻却されるか、あるいは実刑の適用が制限されるか。
規範
憲法25条1項は、国に対して国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障すべき責務を課した規定であり、個別の犯罪行為の違法性を直接阻却する法的根拠を与えるものではない。したがって、食糧の窮迫という事実があるからといって、法令に違反する行為の違法性が当然に否定されることはない。
重要事実
被告人は、多数の工員を擁し食糧に窮迫していたA紡績株式会社B工場の責任者と話し合った上で、食糧を確保するために本件玄麦の買受(いわゆる闇取引)を行った。弁護人は、この行為が生存権を保障する憲法25条1項に基づき違法性が阻却される、あるいは実刑に処すべきではないと主張して上告した。
あてはめ
被告人が玄麦を買い受けた動機が、工場工員らの食糧窮迫という窮状を救うためであったとしても、その事実のみをもって直ちに憲法25条1項に基づく違法性阻却を認めることはできない。また、そのような事情が存するからといって、直ちに実刑の言渡しが制限されるべき法的必然性も認められない。行為自体が法令の禁止規定に触れる以上、生存権規定を抽象的な免罪符として用いることは、確立された判例の趣旨に照らして許容されないと評価される。
結論
本件玄麦の買受行為について、憲法25条1項を理由に違法性が阻却されることはなく、有罪および実刑の判断は正当である。
実務上の射程
生存権を根拠とした超法規的違法性阻却事由の主張(いわゆる食糧メーデー事件判決の流れを汲む主張)に対する否定的な射程を示す。答案上は、憲法のプログラム規定説的性格を示唆しつつ、基本権が直接に個別の刑事罰を無効化するものではないことを説明する際に活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)3375 / 裁判年月日: 昭和29年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条1項は国政運営上の責務を宣言したものであり、個々の国民に対して具体的・現実的な権利を直接付与するものではない。したがって、生存維持を目的とした食糧管理法違反行為を処罰することも、同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、自己の生活を維持するために、当時の食糧管理法(主要食糧の配給統…