本件において、所論前科の事実は、賭博常習認定の一資料に過ぎないのであつて、かかる前科事実を自白のみによつて認定することを違法とする法的根拠はなく、なお原判決は、右前科の外被告人等の第一審公判における供述、検察官、の松田和三吉に対する聴取書、検察事務官の安村俊雄に対する聴取書を綜合して、本件常習賭博全体の事実を認定したものであることは原判文上明らかであるから、原判決に所論のような理由の不偏の違法ありとすることはできない。よつて刑訴施行法第二条、旧刑訴法第四四六条に従い主文のにおり判決する。
賭博の前科と常習性の認定―同前科の事実を自白のみによつて認定することの適否
刑法186条1項,旧刑訴法336条,刑訴応急措置法10条3項
判旨
常習賭博罪における常習性を認定する際の一資料となる前科の事実は、自白のみによって認定することが許される。また、当該前科の事実に加え、公判供述や供述調書等を総合して常習性の有無を判断することは、憲法上の自白の補強法則(憲法38条3項)等に抵触しない。
問題の所在(論点)
常習賭博罪の「常習性」を認定するにあたり、その資料となる「前科の事実」を被告人の自白のみによって認定することが許されるか。また、それが補強法則(憲法38条3項、刑訴法319条2項参照)との関係で問題とならないか。
規範
犯罪事実の存否を認定するための証拠能力および証明力に関する原則において、罪となるべき事実(本件では常習賭博罪における常習性)を構成する一資料に過ぎない前科の事実については、自白のみによる認定を禁止する法的根拠はない。したがって、裁判所は自白に加え、他の証拠を総合して犯罪事実の全体を認定することができる。
重要事実
被告人らが常習賭博罪で起訴された事案。原審は、被告人らの前科の事実を自白に基づき認定し、これを常習性を基礎付ける一資料とした。さらに、当該前科の事実に加えて、被告人らの第一審公判における供述、関係者(松田および安村)に対する検察官・検察事務官の聴取書等の証拠を総合して、本件常習賭博の事実全体を認定した。これに対し、被告人側は、前科の事実を自白のみで認定した点に理由不備の違法があると主張して上告した。
あてはめ
本件における前科の事実は、常習賭博罪の構成要件である「常習性」を認定するための一資料に過ぎない。このような性質の事実にまで補強証拠を必要とする法的根拠は存在しない。原判決を確認すると、単に前科の自白のみで有罪としたのではなく、公判供述や第三者の供述調書といった他の証拠を総合して、本件の常習賭博の事実全体を認定している。したがって、証拠法則上の不備や理由不備の違法は認められない。
結論
前科の事実は常習性認定の一資料に過ぎず、自白のみによる認定も適法である。原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
常習犯の認定において、過去の犯罪歴(前科)を自白に基づき認定することの可否が問われる場面で活用できる。補強法則が適用される「罪となるべき事実」の範囲を画定する際、常習性という包括的な属性を構成する個別的な経歴事実は、その一資料に留まる限り自白のみでの認定が許容されることを示す射程を持つ。答案上は、補強法則の適用範囲を限定する文脈で引用すべき判例である。
事件番号: 昭和25(れ)1453 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
常習賭博罪における数個の賭博行為は、包括して単純な一罪を構成する。