判旨
窃盗罪における被害物件の判示としては、窃取された財物が何であるかを特定すれば足り、その品質や価格まで明示する必要はない。
問題の所在(論点)
窃盗罪の成立を認める判示において、被害物件の客体をどの程度まで具体的に特定(品質・価格の明示等)する必要があるか。
規範
窃盗罪(刑法235条)の構成要件的行為を基礎付ける客体(被害物件)の特定においては、他人の占有する財物が何であるかを具体的に明らかにすれば足り、当該財物の詳細な品質や具体的な価格を明示することまでは要しない。
重要事実
被告人が衣類数点を窃取した事案において、原判決が窃盗罪の目的物を「衣類何点」と記載したことに対し、弁護側が財物の品質や価格が明示されていないとして、客体の特定が不十分であると主張して上告した。
あてはめ
原判決において窃盗罪の目的物として「衣類何点」と記載されていることは、被告人が窃取した他人の財物が如何なるものであるかを具体的に示すものといえる。窃盗罪は他人の占有を侵害して財物を自己の占有に移すことで成立する罪であり、対象が「財物」であることが明らかであれば足り、その市場価値(価格)や詳細な質(品質)の確定は犯罪の成否に影響しないため、本件の判示で特定として十分である。
結論
被告人が窃取した財物が「衣類」であることを示せば客体の特定として十分であり、品質・価格の明示がなくても窃盗罪は成立する。
実務上の射程
起訴状の公訴事実の特定や判決書の事実適示において、被害物件を「衣類」や「現金」等と概括的に記載しても、他人の財物であることが特定されていれば足ることを示す。実務上、盗品が毀滅して詳細が不明な場合や、多品目の場合に簡潔な表示で済ませる際の根拠となる。
事件番号: 昭和25(あ)2743 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件の被害品であるリヤカー用タイヤ二本が所論のように無価値な廃品であつて窃盗罪を構成するに足りないほど被害法益が零細であるとは認められないから、原判決は所論に掲げるいわゆる一厘事件の大審院判決に違反するものということはできない。