判旨
窃盗罪の客体である「財物」について、たとえ機械としての本来の機能が失われ廃品となった屑鉄であっても、財産的価値が認められる限り、同罪の客体に該当する。
問題の所在(論点)
機械としての本来の用途を失った廃品(屑鉄)が、刑法235条にいう「財物」に該当するか。
規範
刑法235条の窃盗罪の客体である「財物」とは、他人が占有する有体物を指し、客観的に経済的価値(交換価値または利用価値)を有するか、あるいは主観的な価値が認められるものでなければならない。たとえ廃品であっても、素材として再利用が可能であったり、売却価格がつくなど、何らかの財産的価値が認められる限り、窃盗罪の客体となる。
重要事実
被告人は、ある機械を窃取したとして窃盗罪に問われた。これに対し弁護人は、当該物体はもはや機械としての機能を果たしておらず、単なる廃品である「屑鉄」にすぎないため、窃盗罪の客体となる財物には当たらない、あるいは価値の低いものであると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人が窃取した対象が機械そのものではなく、その廃品である屑鉄であったとしても、屑鉄は金属資源としての交換価値を有している。したがって、本来の機械としての機能が失われている事実は、直ちに当該物体の財産的価値を否定する根拠にはならない。裁判所は、第一審判決が挙げた証拠および自白の補強証拠に照らし、当該物体が窃盗罪の客体となり得る財物であることを前提として有罪を維持した。
結論
廃品たる屑鉄であっても、財産的価値を有する限り「財物」に該当し、これを窃取する行為は窃盗罪を構成する。
実務上の射程
「財物」の概念における経済的価値の要否・程度に関する基本判例である。微小な価値であっても、主観的価値や素材としての価値があれば財物性が認められるという実務上の広範な解釈を支える。答案上は、価値が乏しいと思われる対象物(ゴミ、使用済み書類等)の財物性を論じる際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和25(あ)2743 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件の被害品であるリヤカー用タイヤ二本が所論のように無価値な廃品であつて窃盗罪を構成するに足りないほど被害法益が零細であるとは認められないから、原判決は所論に掲げるいわゆる一厘事件の大審院判決に違反するものということはできない。