本件の被害品であるリヤカー用タイヤ二本が所論のように無価値な廃品であつて窃盗罪を構成するに足りないほど被害法益が零細であるとは認められないから、原判決は所論に掲げるいわゆる一厘事件の大審院判決に違反するものということはできない。
価値少き物の窃盗といわゆる一厘事件の大審院判例に違反の有無
刑法235条,刑訴法405条3号
判旨
窃盗罪における客体が無価値な廃品ではなく、被害法益が零細であると認められない場合には、可罰的違法性を欠くとはいえず窃盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
被害品が経済的に少額または無価値に近い場合であっても、窃盗罪の客体となり得るか。すなわち、被害法益の零細性を理由に可罰的違法性が否定されるか。
規範
窃盗罪(刑法235条)の成立には、客体が財産的価値を有するものであることを要するが、被害法益が著しく零細であって処罰に値しない(可罰的違法性を欠く)と認められない限り、窃盗罪を構成する。
重要事実
被告人が、他人の所有に属するリヤカー用タイヤ2本を窃取した。弁護人は、当該タイヤが無価値な廃品であり、大審院判例(いわゆる一厘事件)に照らして、被害法益が零細であるため窃盗罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
本件の被害品であるリヤカー用タイヤ2本について検討すると、所論のように無価値な廃品であるとは認められない。また、その被害法益についても、窃盗罪を構成するに足りないほど零細であるとは認められない。したがって、本件行為は可罰的な違法性を備えたものと評価される。
結論
本件タイヤの窃取について窃盗罪の成立を認めた原判決に憲法違反や判例違反の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
可罰的違法性の論点において、形式的に構成要件に該当しても処罰を否定すべき「被害の僅少性」を判断する際の基準として引用される。実務上は、主観的な所有の意思や客体の僅かな再利用可能性があれば、なお財物性を肯定し得ると解する一助となる。
事件番号: 昭和25(あ)1666 / 裁判年月日: 昭和27年5月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪の客体である「財物」について、たとえ機械としての本来の機能が失われ廃品となった屑鉄であっても、財産的価値が認められる限り、同罪の客体に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、ある機械を窃取したとして窃盗罪に問われた。これに対し弁護人は、当該物体はもはや機械としての機能を果たしておらず、単なる…