原判決の維持する第一審判決は、その判示事実と判決挙示の証拠とを対照して考えると、被告人等および第一審相被上告人Aは小運送業を営み、B通運株式会社C支店の常傭として、同会社C支店長Dの保管に係る水粳玄米を同支店倉庫から食糧配給公団E支所精米所へ運搬する労務に従事中、判示のようにその運搬途上においてこれを、窃取したとの事実を認定したものであつて、この判示事実によれば、前記支店長DがB通運株式会社のために本件運搬中の水粳玄米を占有保管していたものであつて、被告人等は右会社C支店の水粳玄米の運搬に関する業務を補助するというに過ぎず所論のように独立の運送人としてみずからの危険と責任とにおいてこれを運搬したものでないから、被告人等のみが運搬中の本件玄米を占有していたとなすべきではない。
運送会社の常傭として会社支店長の保管に係る玄米を運搬の途中で領得した場合における罪責
刑法235条,刑法252条
判旨
運送業務の補助者が運搬中の物品を領得した場合、当該物品の占有は依然として補助を依頼した会社側に認められるため、補助者による領得行為は窃盗罪を構成する。
問題の所在(論点)
運送業務を補助する「常傭」の立場にある者が、運搬中の物品を自己の支配下に置いた場合、当該物品の占有が誰にあるか。すなわち、被告人等の行為が窃盗罪(235条)と横領罪(252条1項)のいずれに該当するか。
規範
刑法上の占有は、目的物に対する事実上の支配のみならず、支配の意思、社会的評価(上下主従関係や業務の形態)を総合して判断される。業務の補助者にすぎない者が物品を運搬する場合、独立の占有は認められず、依然として上位者の占有が継続する。
重要事実
被告人等3名は小運搬業を営み、運送会社の支店の常傭として、支店長が保管する玄米を精米所へ運搬する労務に従事していた。被告人等は、この運搬途上において当該玄米を窃取した。
あてはめ
被告人等は運送会社の支店に常傭され、支店長の保管する玄米の運搬業務を「補助」する地位にあった。被告人等は独立の運送人として自らの危険と責任において運搬していたものではない。したがって、運搬中の玄米は依然として支店長(会社側)の占有下にあり、被告人等は単なる占有補助者にすぎない。この占有補助者が物品を領得する行為は、他人の占有を排除する行為といえる。
結論
被告人等には玄米の占有が認められないため、その領得行為は他人の占有を侵害する窃盗罪を構成する。原判決の判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、業務上の上下関係や補助的立場にある者の占有を否定し、上位者の占有を認める判断枠組み(占有補助者の法理)を明確にしている。司法試験においては、会社員や配達員が目的物を領得した場合に、単なる「占有補助者」に止まるのか、それとも「独立の占有」が認められる地位にあるのかを区別する際の主要な指針となる。
事件番号: 昭和25(あ)2743 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件の被害品であるリヤカー用タイヤ二本が所論のように無価値な廃品であつて窃盗罪を構成するに足りないほど被害法益が零細であるとは認められないから、原判決は所論に掲げるいわゆる一厘事件の大審院判決に違反するものということはできない。