警察犯処罰令第二条二九号において「他人ノ田野園囿ニ於テ菜果ヲ採摘シ、又ハ花弁ヲ採折シタル者」は「三十日未満ノ拘留又ハ二十円未満ノ科料ニ処ス」る旨を規定している。この警察犯処罰令の規定は、軽微な犯罪を対象とし、被害法益の零細軽微なものに対して警察的取を締することを目的とするものであることは、前記法条の字句に照らしても又立法の沿革に徴しても明白である。窃盗罪との区別は被害法益の大小軽量によつて決すべきものとするのが妥当である。その被害法益が「財物」として保護さるべき程度に達するときは窃盗罪を構成し、然らざるときは警察犯としての野荒しとなるのである。結局は社会通念に従つて裁判官が判定すべき事柄である。
警察犯処罰令の規定の趣旨と同令第二条二九号と窃盗罪の区別
刑法235条,警察犯処罰令(明治41・9・29)2条29号
判旨
窃盗罪と警察犯処罰令上の軽犯罪(野荒らし)の区別は、社会通念に従い、被害法益が刑法上の「財物」として保護すべき程度に達しているか否かによって決すべきである。戦後の食糧難という時代背景下では、数貫の馬鈴薯の窃取は経済的価値が相当に高く、窃盗罪を構成する。
問題の所在(論点)
他人の田野において菜果を採摘する行為について、刑法235条の窃盗罪が成立するか、それとも被害法益が零細な警察犯(旧警察犯処罰令2条29号)にとどまるか、その区別が問題となる。
規範
刑法235条の窃盗罪と、旧警察犯処罰令2条29号(いわゆる野荒らし)の区別の基準は、被害法益の大小軽重によって決すべきである。具体的には、対象物の被害法益が刑法上の「財物」として保護されるべき程度に達する場合は窃盗罪を構成し、その程度に達しない零細軽微なものに対する警察的取締にとどまる場合は警察犯となる。この判断は、当時の社会情勢や経済的価値を考慮し、社会通念に従って裁判官が判定すべきである。
重要事実
被告人は昭和22年7月から8月にかけて、2回にわたり、夜間に他人の畑に侵入した。被告人は、南京袋を用意し、自転車に積んで持ち帰る目的で、馬鈴薯計10貫(1回につき5、6貫ずつ)を窃取した。当時は戦後の極端な食糧難の時期であり、馬鈴薯は主食の一部として扱われていた。
あてはめ
本件について検討するに、犯行当時の昭和22年頃は国民が食糧難に苦しんでおり、馬鈴薯は主食代替物として極めて高い経済的価値を有していた。被告人が窃取した「10貫」という分量は、南京袋を用い自転車で運搬するほど多量であり、現場での一時的な採食といった軽微なものとは明らかに一線を画する。したがって、当該馬鈴薯は社会通念上、刑法235条が保護する「財物」としての程度に十分に達していると評価できる。
結論
本件行為には窃盗罪が成立し、警察犯処罰令を適用すべきとする上告論旨は理由がない。
実務上の射程
可罰的違法性論の先駆けともいえる判例であり、微罪につき刑法上の構成要件該当性を否定すべきかどうかの文脈で引用可能である。現代では本件の警察犯処罰令に代わり軽犯罪法1条21号が該当するが、本判例の「被害法益の程度」による区別は現在も妥当する。
事件番号: 昭和25(あ)741 / 裁判年月日: 昭和26年3月20日 / 結論: 棄却
原判決の維持する第一審判決は、その判示事実と判決挙示の証拠とを対照して考えると、被告人等および第一審相被上告人Aは小運送業を営み、B通運株式会社C支店の常傭として、同会社C支店長Dの保管に係る水粳玄米を同支店倉庫から食糧配給公団E支所精米所へ運搬する労務に従事中、判示のようにその運搬途上においてこれを、窃取したとの事実…