刑法における財物取罪の規定は人の財物に対する事実上の所持を保護せんとするものであつて、これを所持するものが法律上その所持を禁じられて居る場合でも現実にこれを所持して居る事実がある以上社会の法的秩序を維持する必要上物の所持という事実上の状態それ自体が保護せられみだりに不正手段によつてこれを侵すことを許さぬものであることは当裁判所判例の示すところである(昭和二四年(れ)第二八九〇号同二五年四月一一日第三小法廷判決)。さればAが事実上所持していた本件濁酒が所論の如く所有並に所持を禁じられていたものであるとしても被告人が不正手段によつて同人の所持を奪つた判示行為に対し窃盗罪として処断した原判決は正当であるばかりでなくまた判例に反するものでもない。
所持禁止の財物に対する窃盗罪の成立
刑法235条
判旨
刑法における財物罪は事実上の所持そのものを保護の対象とするため、法律上所持が禁じられている物であっても、現に占有されている限り窃盗罪の客体(財物)に当たる。
問題の所在(論点)
法律上その所有や所持が禁止されている禁制品(本件では濁酒)であっても、刑法235条の「他人の財物」として窃盗罪の客体になり得るか。
規範
刑法における財物罪の規定は、財物に対する事実上の所持(占有)を保護するものである。したがって、物の所持が法律上禁じられている場合であっても、現実の所持という事実状態がある以上、社会の法的秩序を維持する観点から、みだりに不正な手段によってこれを侵すことは許されない。
重要事実
被告人は、Aが事実上所持していた濁酒(どぶろく)を、不正な手段を用いて奪取した。当該濁酒は、当時の法律等によって所有および所持が禁止されていた禁制品であった。
あてはめ
本件の濁酒は、法律上はその所有・所持が禁じられている。しかし、Aがこれを現実に所持していた事実は認められる。刑法が守ろうとするのは、所持が適法か否かという点ではなく、現に存在する所持という事実上の状態そのものである。したがって、被告人が不正手段によってAから濁酒を奪った行為は、Aの事実上の所持という法的秩序を侵害したものと評価できる。
結論
たとえ法律上所持が禁じられている禁制品であっても、他人が事実上所持している以上は窃盗罪の客体となり、これを奪取した被告人には窃盗罪が成立する。
実務上の射程
禁制品の財物性を認めた重要判例。答案上は、物の適法性に関わらず、事実上の占有が認められる限り窃盗罪(または他財物罪)の客体性が認められるという「本権説」ではなく「占有説」に近い立場を示す際に引用される。覚醒剤や盗品などの奪取事案においても、同様の論理で財物性が肯定される。
事件番号: 昭和25(あ)1666 / 裁判年月日: 昭和27年5月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪の客体である「財物」について、たとえ機械としての本来の機能が失われ廃品となった屑鉄であっても、財産的価値が認められる限り、同罪の客体に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、ある機械を窃取したとして窃盗罪に問われた。これに対し弁護人は、当該物体はもはや機械としての機能を果たしておらず、単なる…
事件番号: 昭和25(れ)217 / 裁判年月日: 昭和25年6月13日 / 結論: 棄却
論旨第二點は、被告人Aに對する起訴事實は窃盜であるのに、原判決が賍物運搬として斷罪したのは、不告不理の原則を破るものだ、というのである。しかし賍物運搬は窃盜の事後においてこれに便益を確保する犯罪であるから、窃盜罪の公訴事實中には賍物運搬罪の事實をも含むものと解すべく、罪名に變更があつても、起訴事實の同一性を害するもので…