譲渡担保にとつた貨物自動車の所有権が債権者に帰属したとしても、債務者側において引き続き占有保管している右自動車を無断で債権者が運び去る所為は、窃盗罪を構成する。
窃盗罪を構成する事例
刑法235条,刑法242条
判旨
窃盗罪等の財産犯における保護法益は、正当な権原に基づく占有のみならず、事実上の所持そのものも含まれる。したがって、他人が事実上支配している財物を、その者の意思に反して自己の支配内に移す行為は、たとえ占有者に正当な権原がなくても窃盗罪を構成する。
問題の所在(論点)
不法な占有(正当な権原のない所持)が窃盗罪の保護法益となるか、また、自己の所有物である可能性がある財物を他人の占有から奪う行為が窃盗罪(刑法242条の適用を含む)を構成するか。
規範
刑法における財物奪取の規定は、財物に対する事実上の所持を保護せんとするものである。所持者が法律上正当な権限を有するかどうかを問わず、また刑法上その所持が禁じられている場合であっても、現実にこれを所持しているという事実上の状態それ自体が独立の法益となり、みだりに不正の手段でこれを侵すことは許されない。
重要事実
被告人は、A社の前身企業に対する貸金の譲渡担保として自動車の所有権を取得したが、占有はA社(後に更生手続により管財人が占有)が継続していた。本件自動車の所有権の帰属については民事裁判を経なければ確定し難い状態であった。被告人は、当該自動車がA社の管財人に委託された運転手によって占有・管理されていることを知りながら、運転手が不在の隙に乗じて勝手に第三者に運転させ、自己の倉庫まで運び去った。
あてはめ
本件自動車は、A社の管財人が運転手に委託して事実上の保管占有を行っていた。被告人は、たとえ自己に実質的な所有権があったとしても、現に他人が事実上支配していることを認識しながら、その意思に反して自己の所持支配内に移している。所持の正当性の有無にかかわらず、この事実上の所持を侵害する行為は「窃取」にあたる。また、刑法242条により、自己の財物であっても他人が占有するものは「他人の財物」とみなされるため、本件行為は窃盗罪の構成要件を充足する。
結論
他人の事実上の支配内にある財物を無断で運び去った行為について、窃盗罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。
実務上の射程
本判例は、財産犯の保護法益について「占有説」の立場を明確に示したものである。答案上では、盗品や不法所持物であっても窃盗罪や恐喝罪の客体となることを論じる際の根拠として使用する。また、刑法242条の適用場面において、占有の有無を認定する際の実務上の指標となる。
事件番号: 昭和37(あ)260 / 裁判年月日: 昭和37年6月26日 / 結論: 棄却
一 原判決の維持する第一審判決が、弁護人の主張に対する判断において認定判示した事実関係の下においては、被告人は、権利者を排除して本件物品に対する完全なる支配を取得し所有者と同様の実を挙げる意思即ち不正領得の意思を有していたこと明らかである。原判決は、右と、やや、理由を異にするが、その結論においては正当である。 二 註。…
事件番号: 昭和55(あ)1081 / 裁判年月日: 昭和55年10月30日 / 結論: 棄却
他人所有の普通乗用自動車を、数時間にわたつて完全に自己の支配下に置く意図のもとに、駐車場から所有者に無断で乗り出し、その後約四時間余りの間乗り廻していたなどの事情があるときは、たとえ、使用後に元の場所に戻しておくつもりであつたとしても、右自動車に対する不正領得の意思があつたということができる。