他人所有の普通乗用自動車を、数時間にわたつて完全に自己の支配下に置く意図のもとに、駐車場から所有者に無断で乗り出し、その後約四時間余りの間乗り廻していたなどの事情があるときは、たとえ、使用後に元の場所に戻しておくつもりであつたとしても、右自動車に対する不正領得の意思があつたということができる。
窃盗罪の成立に必要な不正領得の意思があるとされた事例
刑法235条
判旨
自動車を数時間にわたり自己の支配下に置く意図で乗り出した場合、元の場所に戻す意思があっても、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として利用・処分する「不法領得の意思」が認められる。
問題の所在(論点)
数時間の乗り回しを目的とした自動車の無断使用において、使用後に返還する意思がある場合に、窃盗罪(刑法235条)の成立に必要な不法領得の意思が認められるか。
規範
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。一時的な使用(使用窃盗)であっても、物の経済的価値を相当程度消耗させる場合や、相当期間にわたり占有を継続・支配する意図がある場合には、可罰的な不法領得の意思が認められる。
重要事実
被告人は深夜、広島市内の給油所駐車場から、他人が所有する時価約250万円相当の普通乗用自動車を、所有者に無断で乗り出した。被告人は当該自動車を数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図を有しており、実際にその後4時間余りにわたって同市内を乗り回していた。なお、被告人は使用後に自動車を元の場所に戻しておくつもりであった。
あてはめ
本件では、被告人は時価約250万円という高価な他人の自動車を、数時間にわたり完全に自己の支配下に置く意図で持ち出している。4時間余りという相当時間の占有継続は、単なる一時的な使用の範囲を超え、所有者を排除して自己の所有物として利用する意思(権利者排除意思・利用処分意思)を示すものである。したがって、たとえ元の場所に戻すつもりであったとしても、その占有の態様から不法領得の意思を肯定するのが相当である。
結論
被告人には不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「使用窃盗」と「窃盗罪」の境界線を示す。自動車のように価値が高く、数時間の占有でも権利者の利益を大きく侵害する客体については、返還意思があっても不法領得の意思を認めやすい傾向にある。答案上では、占有の期間(4時間)と客体の価値(250万円)を指摘し、排除意思が顕著であることを論証する際に活用すべきである。
事件番号: 昭和31(あ)3981 / 裁判年月日: 昭和35年4月26日 / 結論: 棄却
譲渡担保にとつた貨物自動車の所有権が債権者に帰属したとしても、債務者側において引き続き占有保管している右自動車を無断で債権者が運び去る所為は、窃盗罪を構成する。