被告人らが、他人所有の自動車を無断で窃盗品の運搬に使用したり、あるいは、その目的をもつて、相当長時間にわたつて乗り廻している場合には、使用後これを元の位置に戻しておいたにしても、不正領得の意思を肯認することができる。
自動車の一時使用と不正領得の意思
刑法235条
判旨
一時的な無断使用(使用窃盗)であっても、盗品運搬等の目的で相当長時間にわたり自動車を乗り回した場合には、不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
自動車の一時的な無断使用(いわゆる使用窃盗)において、使用後に元の場所へ戻す意思がある場合でも、不法領得の意思を肯定できるか。
規範
窃盗罪(刑法235条)の成立に必要な不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。一時的な使用目的であっても、その使用の態様が権利者の所有権を侵害する程度に達し、かつ物の経済的価値を相当程度享受する意思があれば、不法領得の意思が肯定される。
重要事実
被告人らは、他人の自動車を無断で持ち出し、これを窃盗品の運搬に使用し、またはその目的をもって相当長時間にわたって乗り回した。その後、被告人らは当該自動車を元の位置に戻しておいた。
事件番号: 昭和55(あ)1081 / 裁判年月日: 昭和55年10月30日 / 結論: 棄却
他人所有の普通乗用自動車を、数時間にわたつて完全に自己の支配下に置く意図のもとに、駐車場から所有者に無断で乗り出し、その後約四時間余りの間乗り廻していたなどの事情があるときは、たとえ、使用後に元の場所に戻しておくつもりであつたとしても、右自動車に対する不正領得の意思があつたということができる。
あてはめ
被告人らは、単なる短時間の移動ではなく、盗品の運搬という独自の目的に利用しており、かつ「相当長時間」にわたって乗り回している。このような態様は、真の所有者を排除して車を自己の支配下に置くものであり、車の価値を著しく費消させる利用行為といえる。したがって、たとえ元の位置に戻す主観的意図があったとしても、客観的な利用態様からみて、権利者を排除して所有者として振る舞う意思(権利者排除意思)および利用・処分意思が認められる。
結論
被告人らには不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。
実務上の射程
使用窃盗と窃盗罪の境界を示す重要判例である。自動車のように価値が高く、使用によって価値が減耗し、かつ排他的占有の必要性が高い物については、数時間の無断走行であっても不法領得の意思が認められやすい。答案では、使用時間の長さ、使用目的の不当性、元の場所に戻す確実性の有無などを考慮要素として活用すべきである。
事件番号: 昭和26(あ)1620 / 裁判年月日: 昭和28年2月13日 / 結論: 棄却
被告人は本件衣類の保管者であるAが金をくれなければ絶対に被害品たる衣類を返さず、半年一年と金をくれるのが長びけば処分する意思であつたというのであるから、いわゆる不法領得の意思がなかつたということはできない。