被害者が電車道寄りの歩道端に在つた塵箱の上に革製シヨルダーバツク(カメラ等在中)とカメラの三脚とを置いて右塵箱から約七米離れた店舗内に入り表戸を開けたまま短時間(約五分間)店内にとどまつていたにすぎない場合には、右シヨルダーバツクは被害者の占有を離れたものとはいえない。
占有離脱物と認められない事例
刑法235条,刑法254条
判旨
他人の占有を離脱したとはいえない状況下にある財物を領得した場合、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
被害者が財物の所在を一時的に離れた、あるいは失念した等の状況において、依然として被害者の占有が認められるか。また、その財物を領得した行為が窃盗罪(刑法235条)と占有離脱物横領罪(刑法254条)のいずれに該当するか。
規範
刑法235条の窃盗罪が成立するためには、財物が他人の占有下にあることを要する。占有の有無は、占有者の意思及び財物の所在場所等に基づき、その財物が依然として占有者の支配範囲内にあるか否かによって決せられる。他人の占有が継続していると認められる財物を奪取する行為は、占有離脱物横領罪(254条)ではなく、窃盗罪を構成する。
重要事実
被告人は、被害者の占有が完全に失われていない財物を自己の所有物とする目的で取得した。被告人側は、当該財物が占有を離脱したものであるとして、窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪の成立にとどまると主張して上告した。なお、具体的な財物の種類や取得時の状況、場所、時間的経過といった詳細な事案の内容については、本判決文からは不明である。
あてはめ
本件において、原判決は被告人の所為が窃盗罪を構成すると判断している。最高裁は、被告人の主張する事案の状況(詳細は不明だが占有離脱を主張する事実関係)を前提としても、当該財物が占有離脱物にあたるとは認められず、依然として他人の占有下にあったとする原判決の判断を相当とした。したがって、他人の占有を侵害して財物を自己の支配下に移した以上、窃盗罪の構成要件を充足するといえる。
結論
被告人の行為は窃盗罪を構成し、占有離脱物横領罪とみるべきではない。上告棄却。
実務上の射程
窃盗罪と占有離脱物横領罪の区別において、被害者の「占有」の存否が決定的な分水嶺となることを示す。答案作成上は、被害者が財物を最後に所持していた場所からの距離、時間的経過、被害者が財物の所在をどの程度把握していたかといった事情から、占有の継続を論証する際の根拠として本判決の趣旨を援用できる。
事件番号: 昭和31(あ)3981 / 裁判年月日: 昭和35年4月26日 / 結論: 棄却
譲渡担保にとつた貨物自動車の所有権が債権者に帰属したとしても、債務者側において引き続き占有保管している右自動車を無断で債権者が運び去る所為は、窃盗罪を構成する。