判旨
窃盗罪の成立には、窃取された財物が何であるかを特定すれば足り、その価格までを判示・認定する必要はない。
問題の所在(論点)
窃盗罪の構成要件として、窃取された財物の「価格」を判決で認定・特定する必要があるか。
規範
窃盗罪における被害物件の判示としては、窃取された財物の対象が何であるかを明らかにすれば十分であり、その具体的な価格までも認定・判示する必要はない。
重要事実
被告人が、被害者Bの所有する瓦を無断で持ち出した行為について窃盗罪に問われた。原審は、Bの供述調書等を証拠として、被告人の行為が窃盗罪に該当することを認めた。これに対し被告人は、窃取された物件の価格の認定がないこと、および本件は売買であり弁償金(1,200円)を支払っていること等を理由に上告した。
あてはめ
窃盗罪は他人の占有する財物を窃取することで成立する罪であり、構成要件の核心は対象物件の占有侵害にある。したがって、財物が特定されている以上、その経済的価値の多寡を示す「価格」の認定は、罪の成立そのものを左右する要素ではない。本件においても、証拠により「瓦」が窃取された事実が認められ、対象物件が特定されている以上、価格の認定がなくても窃盗罪の成立に欠けるところはない。
結論
窃盗罪の判示に物件の価格認定は不要であり、被告人の上告を棄却する。
実務上の射程
裁判所が窃盗罪の有罪判決を書く際、対象物件を名称や数量等で特定すれば足り、時価等の価格認定がなくても理由不備にならないことを示す。実務上は量刑判断のために価格が考慮されるが、構成要件充足性の判断においては財物の特定(他人の財物性)のみが重要となる。答案上では、財物の価値が極めて低く可罰的違法性が問題となる場面を除き、価格の特定は不要である旨を論述する際に引用し得る。
事件番号: 昭和25(あ)2743 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件の被害品であるリヤカー用タイヤ二本が所論のように無価値な廃品であつて窃盗罪を構成するに足りないほど被害法益が零細であるとは認められないから、原判決は所論に掲げるいわゆる一厘事件の大審院判決に違反するものということはできない。