記録を調査すると、所論鑑定書については本件上告人等の原審相被告人たるAに対する原審公判手続に於てはその証拠調が為されているが、同人と本件上告人等との審理を併合した後の原審公判手続に於ては右鑑定書について何等の証拠手続が履践されていないことは所論のとおりである。 ところで、原判決は理由第三における上告人等全員の犯罪事実につき右鑑定書を他の証拠と不可分的に綜合してこれを認定しているのであるが、その鑑定書につき適法な証拠調が為されていないこと前記の如くであるからその判決は違法であると言わなければならない。
審理を併合する前に証拠調べをした鑑定書につき、その併合後に適法な証拠調べをしないで綜合認定の証拠に供した判決の適否
旧刑訴法338条,旧刑訴法410条13号
判旨
共犯者等の相被告人に対する公判手続で証拠調べがなされた証拠であっても、審理併合後の被告人らに対する公判手続において適法な証拠調べがなされていない場合には、これを被告人らの有罪認定の証拠とすることはできない。
問題の所在(論点)
審理併合前に相被告人の手続で取り調べられた証拠を、併合後に他の被告人との関係で証拠調べを経ることなく、当該被告人の有罪認定の基礎にできるか(旧刑事訴訟法下における証拠調べ手続の要否)。
規範
裁判所が特定の被告人に対する有罪判決の基礎として証拠を用いるためには、当該被告人との関係で適法な証拠調べの手続が履践されていなければならない。審理が併合された場合であっても、併合前に他者の手続で行われた証拠調べの効果が当然に他の被告人に及ぶものではなく、併合後の手続において改めて当該証拠の取り調べを要する。
重要事実
被告人B、C、Dの控訴審において、原審の相被告人Eに対する公判手続では特定の鑑定書の証拠調べが行われていた。しかし、Eと被告人B・C・Dの審理が併合された後の公判手続においては、当該鑑定書について何ら証拠調べの手続が履践されなかった。それにもかかわらず、原判決は当該鑑定書を他の証拠と不可分的に総合して、被告人B・C・D全員の犯罪事実を認定した。
あてはめ
本件鑑定書は、相被告人Eに対する手続では証拠調べがなされていたが、被告人B・C・Dとの審理併合後の公判手続においては証拠調べが全くなされていない。裁判所が証拠に基づき事実を認定する以上、その証拠は当該被告人に対する手続において適法に提示され、取り調べられたものでなければならない。したがって、適法な証拠調べを経ていない本件鑑定書を被告人B・C・Dの犯罪事実認定の基礎とした原判決の判断には、証拠法則に反する違法がある。
結論
適法な証拠調べを経ていない鑑定書を事実認定の基礎とした原判決は違法であり、破棄を免れない。また、一部の被告人のみが上告趣意で指摘した場合であっても、破棄の理由は他の被告人にも共通するため、全員について原判決を破棄し差戻すべきである。
実務上の射程
現行刑訴法下においても、証拠裁判主義(317条)および適法な証拠調べ(304条〜307条)の要請から、併合された被告人ごとに証拠調べ手続が必要であることを示す。特に、併合前に取り調べ済みの証拠を新しく併合された被告人の事実認定に用いる際は、改めて証拠調べ(更新・再度の取り調べ)を怠ってはならないという実務上の教訓となる。
事件番号: 昭和25(あ)631 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】適法な証拠調べを経ていない証拠を事実認定に用いることは違法であるが、当該証拠が犯罪構成要件に直接関わらない事項の証明資料にすぎず、他の適法な証拠によって犯罪事実が十分に認められる場合には、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。 第1 事案の概要:被告人A、Bらの刑事事件にお…