原審が本件につき適用した昭和二二年九月一日物価庁告示第五二五号(原判決に昭和二一年とあるは同二二年の誤記と認める)は、判示昭和二三年三月中に行われた被告人の犯行当時における加工水産物の販売価格の統制額を指定していたものである。尤も同告示は同二三年四月一九日同庁告示第二二九号により、新統制額が指定されるとともに廃止され、その後数次に亘る同庁告示の改廃を経て、遂に昭和二五年四月一日以降は加工水産物につき統制額の指定なき状態となつたことは所論のとおりである。しかし一旦成立した物価統制令違反罪の処罰がかかる爾後における告示の廃止により左右されるものでないと解すべきことは既に当裁判所大法廷の判例により判示されたところである。
加工水産物の統制額に関する告示の廃止と旧刑訴法第三六三条にいわゆる「刑ノ廃止」
昭和23年4月物価庁告示229号,旧刑訴法363条2号
判旨
物価統制令に基づき指定された統制額が後の告示により廃止された場合であっても、行為時に成立した同令違反罪の処罰は左右されず、刑法6条による刑の廃止には当たらない。
問題の所在(論点)
行為後に処罰の根拠となった告示が廃止され、統制額の指定がなくなった場合、刑法6条にいう「犯罪後の法律により刑が廃止されたとき」に該当し、処罰を免れるか。
規範
法令の改廃により罰則が廃止されたのではなく、単に事実関係の変動(経済状況の変化等)に伴い、価格統制の必要性がなくなったとして告示が廃止されたに過ぎない場合(限時法的な性質を有する場合を含む)は、刑法6条(刑の変更)の適用はなく、行為時の法令によって処罰される。
重要事実
被告人らは、昭和23年3月、当時の物価庁告示(昭和22年第525号)により指定された統制額を超える価格で加工水産物(煮干いわし)を売買したとして、物価統制令違反で起訴された。その後、昭和23年4月に新統制額の指定に伴い当該告示は廃止され、さらに昭和25年4月以降は加工水産物に対する統制額の指定自体がなくなったため、被告人らは処罰の根拠が失われたと主張して上告した。
あてはめ
本件における物価庁告示の廃止は、物価統制令そのものの廃止を意味するものではない。統制額の改廃は、時々の経済情勢に対応するための事実上の措置であり、過去になされた違反行為の可罰性を否定する趣旨ではない。したがって、一旦成立した物価統制令違反罪の処罰は、その後の告示の改廃という事実上の変更によって左右されるものではないと解される。
結論
行為当時の告示に基づき成立した罪は、その後の告示廃止にかかわらず維持されるため、被告人を処罰することは適法である。
実務上の射程
法令そのものの改廃(法律的見解の変更)ではなく、事態の変遷に伴う事実上の変更(事実の変遷)にすぎない場合には刑法6条を適用しないとする、いわゆる「事実の変遷」論のリーディングケースである。答案上は、法律改正による刑の廃止か、単なる事実関係の変化かを区別する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和25(れ)1271 / 裁判年月日: 昭和25年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反罪の成立後、価格の統制額を指定する告示が改廃されたとしても、一度成立した犯罪の処罰はこれによって左右されない。 第1 事案の概要:被告人は昭和23年2月末から3月にかけて、魚類等の販売につき当時の物価庁告示(昭和22年11月25日付)に定められた統制額を超えた価格で取引を行い、物価統…