一 第一審においては被告人Aに対し懲役一〇年に被告人Bに対し懲役五年に処する未決勾留日数中九〇日を各本刑に算入するとの判決を言渡したが原審においては右Aに対し懲役一〇年右Bに対し懲役五年の刑を言渡し何れも未決勾留日数を本刑に算入しなかつたことは原判決が第一審判決より重い刑を言渡したものといわなければならない。 二 主文原判決を破棄する。被告人Aを懲役一〇年に、同Bを懲役五年に各処する。被告人等の本件各上告を棄却する。(未決勾留日数の算入及び没収は省略する。)
一 旧刑訴第四〇三条の不利益変更の禁止に違背した例 二 検察官と被告人の双方から上訴を申し立て、その一方のみが理由のある場合における主文の一事例
旧刑訴法403条,旧刑訴法446条,旧刑訴法447条
判旨
被告人のみが控訴した事件において、第一審判決が認めた未決勾留日数の本刑算入を原審が認めなかったことは、実質的に第一審より重い刑を言い渡したものとして不利益変更禁止の原則に抵触する。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、刑期を変えずに第一審で認められていた未決勾留日数の算入を控訴審で認めないことは、不利益変更禁止の原則に反するか。
規範
被告人が控訴した事件において、控訴裁判所は第一審の判決よりも重い刑を言い渡すことはできない(不利益変更禁止の原則)。刑の重軽を比較するにあたっては、刑期そのものだけでなく、未決勾留日数の算入の有無等、実質的に被告人に不利益となる変更が含まれるか否かで判断すべきである。
重要事実
第一審判決は被告人Aに対し懲役10年、被告人Bに対し懲役5年に処し、それぞれ未決勾留日数中90日を本刑に算入した。これに対し被告人のみが控訴したところ、原審(控訴審)は、Aに対し懲役10年、Bに対し懲役5年の刑を言い渡しながら、未決勾留日数の算入を一切認めなかった。検察官は、これが不利益変更禁止を定めた旧刑事訴訟法403条(現行刑事訴訟法402条に相当)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件では、被告人らが控訴していることから不利益変更禁止の原則が適用される。第一審判決が一定の未決勾留日数を本刑に算入していたのに対し、原審はこれを算入しなかった。未決勾留日数の算入は実質的な刑の執行期間を短縮する効果を持つため、これを排除することは、たとえ主刑の期間が同一であっても、被告人にとって実質的に第一審判決より重い刑を言い渡したものと評価される。
結論
原判決には不利益変更禁止の原則に違反する違法があるため、破棄を免れない。改めて第一審と同様に未決勾留日数を算入した判決を言い渡すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟法402条(不利益変更禁止)の解釈において、刑の重軽を形式的な刑名や刑期のみでなく、未決勾留日数の算入という実質的な不利益の有無で判断する際の基礎となる判例である。答案上は、併合罪の処理や刑の減免の有無と並び、処断刑の比較検討の文脈で使用する。
事件番号: 昭和24(れ)2437 / 裁判年月日: 昭和25年3月3日 / 結論: 破棄自判
第一審においては、被告人に對して窃盜の事實を認定して、懲役十月に處する旨の判決を言渡し、同判決に對して被告人より控訴を申立て(檢事より控訴附帶控訴の申立てなく)第二審においては、同一事實を認定して被告人を懲役一年に處す、但し裁判確定の日より四年間右刑の執行を猶豫する旨の判決を言渡したが、かくのごとき場合、第一審の刑と第…
事件番号: 昭和53(あ)1200 / 裁判年月日: 昭和55年12月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴法四〇二条における刑の軽重の比較にあたつては、刑の執行猶予の言渡の有無をも考慮すべきである。 二 第一審が被告人に対し懲役一年の刑を言い渡したのを、第二審が懲役一年六月、三年間執行猶予、保護観察付の刑に変更しても、刑訴法四〇二条に違反しない。
事件番号: 昭和39(あ)61 / 裁判年月日: 昭和39年7月14日 / 結論: 棄却
所論は、原判決は刑訴法第四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、判例違反を主張するが、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲役刑を選択、処断したものであるのに対し原審は死刑を選択し、第一審の認めなかつた被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期懲役刑を宣告したものであることは各判文…