所論昭和二五年三月二七日農林省令第二七号附則の趣旨は加工水産物配給規則廃止前に行われた違反行為に対しては同規則廃止後も廃止前に行われた違反行為の罰則に関する範囲においては、これを廃止しない趣旨であつて、一旦廃止して更に罰則を設けるという趣旨でない故所論違憲論は前提を欠き採用できない。
農林省令第二七号附則所定の「…規則廃止前にした行為に対する罰則の適用については…なお従前の例による」とした規則の趣旨と憲法第三一条第七三条第六号
憲法31条,憲法73条6号,昭和25年3月27日農林省令27号附則
判旨
法令の廃止に際して設けられた経過規定は、廃止前に行われた違反行為に対し、罰則の適用に関する限りにおいて当該法令を存続させる趣旨であり、刑罰の遡及適用を禁じる憲法上の原則に反しない。
問題の所在(論点)
法令が廃止された後も、廃止前の違反行為について従前の罰則を適用する旨の経過規定を設けることは、憲法の禁止する遡及処罰(事後法の禁止)に抵触するか。また、その経過規定の法的性質をいかに解すべきか。
規範
法令を廃止するに際し、附則等において「廃止前に行われた行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨の経過規定を置くことは、当該違反行為時において既に存在した罰則を、その行為に対してのみ効力を存続させることを意味する。これは、一旦廃止した後に新たな罰則を遡及させて設けるものではないため、憲法の禁止する事後刑の適用には当たらない。
重要事実
被告人は、加工水産物配給規則が有効であった当時に同規則に違反する行為を行った。その後、昭和25年3月27日農林省令第27号により同規則が廃止されたが、その附則には廃止前の行為に対する罰則の適用を維持する趣旨の規定(経過規定)が置かれていた。弁護人は、この経過規定が一旦廃止された罰則を改めて設けるものであり、憲法に違反する遡及処罰であると主張して上告した。
事件番号: 昭和25(あ)1669 / 裁判年月日: 昭和27年3月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】限時法の性質を有する法令が廃止された場合であっても、附則に「改正前の行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨の経過規定があるときは、刑の廃止(刑訴法411条5号等)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が臨時物資需給調整法に基づく薪炭需給調整規則に違反する行為を行ったが、その後…
あてはめ
本件農林省令の附則は、加工水産物配給規則の廃止前に行われた違反行為に対し、当該規則が完全に失効するのではなく、罰則適用の範囲においてのみ廃止しないという趣旨を明確にしている。すなわち、行為当時に存在した罰則をそのまま維持するものである。したがって、一旦廃止された罰則を事後に再度創設して適用するものではないため、罪刑法定主義ないし遡及処罰の禁止という憲法上の法理を害するものではないと評価される。
結論
本件経過規定は、廃止前の違反行為について罰則を存続させる趣旨であり、違憲ではない。したがって、被告人に対する処罰は維持される。
実務上の射程
法令が改廃される際、旧法下の違法行為を免責させないために置かれる一般的な経過規定(「なお従前の例による」等)の合憲性を支えるリーディングケースである。答案上は、限時法や法令変更時の刑罰権の存否が問題となる場面で、実質的な法価値の変更(いわゆる法律の変更)か、単なる事実上の変更(事実の変遷)かを論ずる際の前段階として、経過規定の法的性質を説明する際に活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)894 / 裁判年月日: 昭和26年5月15日 / 結論: 棄却
所論の臨時物資需給調整法附則第二項(昭和二三年三月三一日法律一六号、同二四年三月三一日法律二一号による改正後のもの)及び昭和二四年七月一五日農林省令第六八号(加工水産物配給規則一部改正)同二五年三月二七日同省令第二七号(同規則廃止)各附則二項は同法律及び同規則改正廃止前に行われた違反行為に対しては、その改正廃止後も改正…
事件番号: 昭和27(あ)2952 / 裁判年月日: 昭和28年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】臨時物資需給調整法の失効前にした行為に対し、失効後も罰則の適用を認める経過規定が存在する場合、刑の廃止(刑訴法402条4号等)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が石油製品配給規則違反に問われた事案。同規則の根拠法である臨時物資需給調整法は、昭和27年7月1日以降廃止された。しかし、同法廃止…
事件番号: 昭和26(れ)1566 / 裁判年月日: 昭和26年11月29日 / 結論: 棄却
指定生産資材在庫調整規則並びに過剰物資等在庫活用規則は臨時物資需給調整法一条一項の規定により主務大臣が、必要な命令として制定された省令であつて、これらの規則そのものが刑罰を定めた罰則規定ないことは多言を要しないところである。そして、これらの省令を全面的に廃止するか一部を存置するか等は主務大臣の裁量に任かされているところ…
事件番号: 昭和28(あ)2873 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律が廃止された後も、当該法律の附則に基づき、廃止前の違反行為を処罰することは、憲法上の適正手続や刑罰不遡及の原則に反せず合憲である。 第1 事案の概要:被告人が臨時物資調整法違反の罪で起訴されたが、同法は有効期間の満了により廃止された。しかし、同法附則第2項但書には、法の失効後も失効前の行為につ…