記録によれば、所論原審公判期日については、被告人の召喚及び弁護人に対する通知等いずれも適法になされていたにも拘らず、被告人及び弁護人は右期日に出頭しなかつたため、原審裁判長は被告人のため弁護士Aを弁護人に選任して公判に立会せしめ、さきに長谷川寛弁護人の提出した控訴趣意書に基ずき弁論をさせた上結審したものであることが認められる。弁護人は右期日には開廷にわずか一五分遅刻しただけで被告人とともに開廷中の裁判所に出頭したことを認むべき何等の証跡もない。従つて仮に本件弁論の終結後、原審が他の事件の審理のため開廷していた間に、被告人等が出頭したとしても、一旦終結した弁論を再開すると否とは原審の裁定に委ねられているところであるから、原審が被告人等に重ねて弁論の機会を与えるため再開の措置をとらなかつたとてこれを目して違法ということはできない。
本件の弁論終結後原審が他の事件の審理中におくれて出頭した被告人及び弁護人に対し弁論の機会を与えことの要否
刑訴法273条,刑訴法289条,刑訴法313条
判旨
適法な召喚を受けた被告人らが公判期日に欠席し、弁論終結後に出頭した場合であっても、一度終結した弁論を再開するか否かは裁判所の裁量に属する。そのため、再開の措置を講じなかったとしても、訴訟手続上の違法や憲法違反は認められない。
問題の所在(論点)
適法な召喚を受けた被告人らが遅刻し、弁論終結後に出頭した場合において、裁判所が弁論を再開せずに結了させることが、被告人の防御権を侵害し訴訟手続上の違法(刑訴法違反)または憲法違反となるか。
規範
適法な召喚手続がなされたにもかかわらず、被告人及び弁護人が公判期日に出頭しなかった場合において、裁判所が国選弁護人を付して弁論を終結させた以上、その後に被告人らが出頭したとしても、弁論を再開するか否かは裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
重要事実
被告人の召喚及び弁護人への通知が適法になされていた原審公判期日において、被告人と弁護人はともに出頭しなかった。裁判長は、被告人のために別の弁護士を弁護人に選任して公理に立ち合わせ、既提出の控訴趣意書に基づき弁論を行わせた上で結審した。弁護人は、開廷から15分遅れて被告人と共に出頭したと主張するが、審理進行中に法廷に出頭した証跡はなかった。弁論終結後、裁判所が別事件の審理を行っていた際に出頭した可能性はあるが、原審は弁論を再開しなかった。
あてはめ
本件では、被告人の召喚等はすべて適法になされていたにもかかわらず、被告人らは指定された期日に欠席している。裁判所は国選弁護人を選任して弁論の機会を確保しており、手続的な不備はない。たとえ弁論終結直後に被告人らが出頭したとしても、一度適法に結了した手続を再開するか否かは裁判所の裁量権の範囲内である。本件において再開の措置をとらなかったことが裁量を逸脱したとはいえず、被告人の権利を不当に侵害するものとは認められない。
結論
一旦終結した弁論を再開するか否かは裁判所の裁量に委ねられており、再開の措置をとらなかった原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
被告人や弁護人の不出頭・遅刻時における弁論終結の有効性と、再開の裁量を認めた判例である。答案上は、被告人の出頭権や弁護を受ける権利(憲法37条)との関係で、手続が適法に進められている限り、裁判所の訴訟指揮権・再開裁量が優先されることを説明する際に活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1092 / 裁判年月日: 昭和26年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判期日に出頭せず、弁護人のみが出頭して審理が行われた場合であっても、それが被告人の権利を不当に侵害するものではなく、手続規定に照らして適法であるならば、憲法上の適正手続に反しない。 第1 事案の概要:被告人が公判期日に出頭しなかった事案において、弁護人のみが公判に出席し審理が進められた。…