判旨
住居侵入罪(刑法130条前段)の成否に関し、建物の所有権が被告人にあったとしても、他人の居住・管理の平穏を侵害する態様であれば、同罪は成立し得る。所有権の有無は、他人の占有する住居への侵入を正当化する絶対的な事由とはならない。
問題の所在(論点)
建物の所有権者が、他人が現に居住・管理する当該建物に立ち入った場合、刑法130条前段の住居侵入罪が成立するか。所有権の有無が構成要件該当性に影響を及ぼすか。
規範
住居侵入罪(刑法130条)の保護法益は、個人の住居の平穏(管理権)にある。たとえ建物の所有権を有していたとしても、正当な理由なく他人の事実上の占有・管理下にある住居に立ち入ることは、その占有者の意思に反し住居の平穏を害するものである以上、同罪の構成要件を充足する。
重要事実
被告人が、第一審の相被告人Aが居住・占有する家屋に侵入したとして住居侵入罪に問われた。被告人は、当該家屋の所有権が自分にあると主張し、所有権がある以上、Aは自己の侵入を拒否する権利はなく、住居侵入罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
被告人は、本件家屋の所有権を自らが有していることを前提に、占有者Aには侵入を拒絶する権限がないと主張する。しかし、同罪は所有権の所在とは別に、現にそこにある占有・平穏を保護するものである。判決文によれば、被告人の主張は単なる審理不尽や証拠調べの不服をいう訴訟法違反にすぎず、所有権があるという仮定に基づいても犯罪の成立は妨げられないと解される。
結論
被告人に所有権がある場合であっても、他人が現に占有・管理する住居への侵入は住居侵入罪を構成し得るため、上告は棄却される。
実務上の射程
自力救済の禁止という観点からも、所有権者が自己の不動産を取り戻す、あるいは管理するために無断で立ち入ることは住居侵入罪となり得る。実務上は、所有権の帰属よりも「現に誰が管理・占有しているか」および「管理者の意思に反するか」を重視すべきである。
事件番号: 昭和48(あ)1890 / 裁判年月日: 昭和49年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】住居侵入罪(刑法130条前段)の保護法益は、住居等の事実上の平穏である。したがって、居住者等が法律上正当な権限を有するか否かは犯罪の成立を左右しない。 第1 事案の概要:被告人が住居侵入罪に問われた事案において、被告人側は、対象となった住居の居住者又は看守者が法律上正当な権限を有していないこと等を…