憲法二八条の趣旨は、昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決に示すとおりであつて、その団結権乃至団体行動権の保障を拡張して本件のように酒税法違反被疑事件一斉検挙の際押収された密造用器物返還などの要求貫徹のため蝟集した朝鮮人の団体(被告人は、その交渉委員である)と、その交渉の相手方たる税務署長との関係にまで及ぼそうとする論旨は、とうてい採用できないものである。
酒税法違反につき押収された密造用器物返還などの要求貫徹のため蝟集した団体と憲法第二八条
憲法28条
判旨
公務所における正当な管理者による退去要求を無視して居座る行為は、憲法28条の団体行動権の保障の範囲外であり、不退去罪(刑法130条後段)が成立する。
問題の所在(論点)
税務署という公立施設における交渉において、管理権者である署長からの退去要求に従わずに留まる行為が、不退去罪(刑法130条後段)を構成するか。また、かかる行為が憲法28条の団体行動権の保障として正当化されるか。
規範
刑法130条後段の不退去罪は、管理権者から退去の要求を受けたにもかかわらず、正当な理由なく当該場所から離脱しないことによって成立する。また、憲法28条が保障する団体行動権であっても、押収物の返還要求等の目的のために公務所の管理権者の明示的な意思に反して庁舎内に留まる行為を正当化するものではない。
重要事実
酒税法違反被疑事件で押収された密造用器物の返還等を要求するため、朝鮮人団体の交渉委員である被告人らはA税務署長のもとを訪れた。署長は午後6時をもって交渉を打ち切る旨を告知し、同時刻を数分過ぎた頃、庁舎管理者として被告人らに対し署長室からの退去を要求した。しかし、被告人らは放言を弄してこれに応じず、署長室に留まり続けた。
事件番号: 昭和25(あ)3057 / 裁判年月日: 昭和27年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表現の自由や団体行動権といえども公共の福祉による制限を受け、多衆の威力を用いて退去要求に応じず器物損壊や脅迫に至る行為は、憲法の保障の限界を逸脱し犯罪として処罰される。 第1 事案の概要:被告人らは、多衆を語らって税務署に押し掛けた。税務署長から再三にわたる退去要求を受けたにもかかわらずこれに応じ…
あてはめ
本件において、A税務署長は庁舎の正当な管理者として、交渉終了の告知に続き明確な退去要求を行っている。これに対し被告人らが放言を弄して居座った事実は、管理権者の意思に反して占有を継続するものであり、不退去罪の客観的構成要件を充足する。また、被告人らの目的は押収物の返還要求等であり、このような目的のための団体行動が憲法28条の保障を拡張して管理権者の退去要求を排斥できるほど正当なものとは解されない。署長が退去要求後に一時的に在室していなかったとしても、管理権に基づく退去の意思表示の効果は存続しており、犯罪の成否に影響しない。
結論
被告人らの行為は刑法130条後段の不退去罪を構成し、憲法28条の保障も及ばないため、有罪とする原判決は妥当である。
実務上の射程
公務所・公共施設における管理権と団体活動の限界を示す事例。正当な理由のない居座りに対して管理権者が退去を求めた場合、たとえ交渉中であっても不退去罪が成立し得ることを確認する際に用いる。建造物侵入罪・不退去罪における「正当な理由」の欠如を論証する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)599 / 裁判年月日: 昭和28年5月21日 / 結論: 棄却
名古屋中公共職業安定所D労働出張所に登録している日雇労働者を代表して、当日就職の斡旋を受け得なかつた労働者のために、愛知県労働部長等に対し就職の斡旋を要求交渉する行為は憲法第二八条の保障する団結権ないし団体行動権の行使に該当しない。