判旨
憲法28条の団体交渉権は使用者対被使用者の関係を前提とするため、生活扶助料支給に関する交渉はこれに該当せず、また、憲法25条1項は国民に対し直接的な具体的・現実的権利を付与するものではない。
問題の所在(論点)
1. 生活保護法に基づく生活扶助料の支給を求める交渉が、憲法28条の団体交渉権の行使として正当化されるか。2. 憲法25条1項に基づき、個別の国民が国家に対して具体的・現実的な請求権を有するか。
規範
1. 憲法28条が保障する団体交渉権は、使用者対被使用者の関係を前提とするものである。2. 憲法25条1項は、国家が国民一般に対し概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ませる責務を負うという国政上の任務を定めたものであり、個々の国民に対し、国家に対する具体的・現実的な権利を直接付与するものではない。
重要事実
労働組合員である被告人らは、他20数名と共に、佐世保市長に対し生活保護法に基づく生活扶助料の支給を求めて交渉を行った。市長の外出後、退庁時刻を過ぎたため助役や警察署員から庁舎外への退去を要求されたが、被告人らは「満足な解決が得られるまでは帰らない」等と主張し、市長応接室の入口をふさいでスクラムを組み、退去要求に応じず同所に留まった。この行為が不退去罪に問われた事案である。
あてはめ
1. 被告人らの交渉事項は生活扶助料の支給要求であり、行政庁に対する公法上の不服申し立てや要望に類するものである。これは雇用関係における労働条件の維持改善を目指すものではなく、使用者対被使用者の関係を前提としないため、憲法28条の保障範囲外である。2. 被告人らが主張する生活扶助の権利は、憲法25条1項から直接導き出される具体的権利ではない。したがって、同条を根拠として退去要求を拒む正当な法的根拠は認められない。
結論
生活扶助料の支給を求める交渉は団体交渉権の行使には当たらない。また、憲法25条は具体的権利を付与しないため、不退去罪の成立を妨げない。
実務上の射程
憲法25条のプログラム規定説を代表する判例の一つである。具体的権利性が否定される結果、立法府の広い裁量を認める帰結となる。答案上は生存権の具体的権利性の有無や、生活保護制度の法的性格、さらには争議行為の正当性(主体・目的・手段の妥当性)の文脈で使用される。
事件番号: 昭和31(あ)970 / 裁判年月日: 昭和33年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による団体交渉を目的とした建物等への立入りであっても、その行為が「正当な団体交渉」の範囲を逸脱する場合には、憲法28条や労働組合法1条2項による刑事免責の対象とならない。 第1 事案の概要:被告人らは、団体交渉を行う目的で特定の室内に立ち入ったが、その態様について、原判決は「正当な団体交渉…
事件番号: 昭和29(あ)1042 / 裁判年月日: 昭和29年9月30日 / 結論: 棄却
原審の認定した事実によれば、「本件交渉は前記失業対策事業に従事する労働者としてその労働条件の改善を計る為の団体交渉と云うよりも、むしろ、長野市民たる被告人等失業者の最低生活を保障する為長野市長に対し生活資金を支給すべきことを要求するのが主眼と認められるのであつて、かかる交渉は使用者対被使用者の関係を前提とする団体交渉権…