なお所論中、被告人の活動は元来所得税法上の正当な行為であり、これを団体行動として為したとするも、それは憲法第二八条によつて保障された正当な行為であると主張するが、憲法第二八条は企業者対勤労者すなわち使用者対被使用者というような関係に立つものの間において経済上の弱者である勤労者のために団結権乃至団体行動権を保障したもので、勤労者以外の団体又は個人の単なる集合に過ぎないものに対してまで団結権乃至団体行動権を保障したものではないと為すことは現に当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第三四〇年昭和二五年九月二七日大法廷判決参照)とするところであつて、本件の如き場合が権法第二八上により保障せらるるものであると主張する論旨の理由のないことは明らかである。
所得税法上の正当な行為を団体として為す場合と憲法第二八条の関係
憲法28条
判旨
憲法28条が保障する団結権および団体行動権は、使用者に対する関係で経済上の弱者である勤労者のために認められたものであり、勤労者以外の団体や個人の単なる集合体による活動には適用されない。
問題の所在(論点)
憲法28条の保障する団結権・団体行動権の主体の範囲。具体的には、納税者が税制や税務執行に関して行う団体行動が、憲法28条の保障の対象となるか。
規範
憲法28条の趣旨は、企業者(使用者)と勤労者(被使用者)という関係において、経済的弱者である勤労者の地位を保護することにある。したがって、同条による保障は、これら勤労者以外の団体または個人の単なる集合体に対してまで及ぶものではない。
重要事実
昭和23年末、連合軍総司令官からの「経済九原則」指令に基づき、税務当局が脱税の徹底的訴追等の施策を進めていた。これに対し被告人は、昭和24年3月頃、民主化同盟員らと共に税務署長に押しかけ、再審査請求への実地調査や、大口脱税の共同調査実施などの要求を行った。これらの行為が昭和22年勅令第1号にいう「政治上の活動」に該当するとして起訴されたところ、被告人側は当該活動が憲法28条により保障された正当な団体行動であると主張して争った。
事件番号: 昭和26(あ)2230 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和22年勅令第1号15条にいう「政治上の活動」は、目的犯のように政治的目的ないし政治的意図を要件とするものではない。政府等の施策活動に関する論議であり、現実の政治に影響を与える行動であれば、主観的な目的の有無にかかわらず同条の活動に該当する。 第1 事案の概要:被告人が行った論議が、昭和22年勅…
あてはめ
本件において被告人らが行った行動は、税務当局という公権力機関に対する要求活動である。これは、憲法28条が予定している「使用者対被使用者」という労使関係における経済的交渉とは性質を異にする。被告人らの集まりは、経済的弱者である勤労者が団結して使用者と対等な立場に立つための組織ではなく、勤労者以外の者を含む「単なる集合」に過ぎない。よって、本件の要求行動は憲法28条の保護の枠外にある。
結論
憲法28条は勤労者以外の団体を保障するものではないため、被告人らの活動に同条の適用はなく、有罪とした原判決に憲法違反はない。
実務上の射程
憲法28条の権利主体を限定解釈するリーディングケースである。労働基本権の主体を検討する際、対象が「勤労者」といえるか、また「労使関係」における活動かという点から射程を画定する基準として機能する。現代の司法試験答案においては、生存権(25条)や表現の自由(21条)など他の基本権との峻別を意識しつつ、28条の目的(労使対等)に立ち戻って論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)1768 / 裁判年月日: 昭和26年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和22年勅令第1号15条1項にいう「政治上の活動」とは、現実の政治に直接又は間接の影響を及ぼすものと認められるような行動を指す。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、裁判所の組織や構成において偏頗の恐れがないことを意味する。 第1 事案の概要:被告人が昭和22年勅令第1号(公職に関する就職…
事件番号: 昭和26(あ)761 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動とは、特定の選挙につき、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に有利な影響を与える行為をいう。本件では、被告人の行為が当該定義に該当し、公職選挙法等による制限の対象となることが示された。 第1 事案の概要:被告人は、昭和22年勅令第1号第15条第1項(当…
事件番号: 昭和25(あ)2878 / 裁判年月日: 昭和25年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧公職追放令(昭和22年勅令第1号)に基づく「政治上の活動」とは、現実の政治に影響を与えるものと認められるような行動を指し、税金闘争を支持する演説等はこれに該当する。 第1 事案の概要:正規陸軍将校であった被告人は、覚書該当者として指定(公職追放対象)されていた。それにもかかわらず、日本共産党地区…
事件番号: 昭和25(あ)84 / 裁判年月日: 昭和25年2月21日 / 結論: 棄却
原判決が昭和二二年勅令第一號第一五条にいう「政治上の活動」の意義について、最高裁判所の判例に示された解釈に從つて被告人の行為を判断しているときは、たとえ判例の適用あやまつたとしても刑訴法第四〇五条第二號にいわゆる「判例と相反する判断をした」ということはできない。