判旨
被告人の公判廷での自白に対し、捜査機関作成の差押調書や領収書等は、独立の証拠として自白の真実性を担保する補強証拠になり得る。また、現行犯逮捕から数日後に録取された供述調書は、不当に長い抑留・拘禁後の自白には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 捜査機関作成の差押調書や受領書は、被告人の自白に対する補強証拠(憲法38条3項、刑訴法319条2項)となり得るか。 2. 現行犯逮捕から6日後に作成された供述調書は、「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか。
規範
憲法38条3項及び刑訴法319条2項にいう「補強証拠」とは、自白が架空のものでなく、真実であることを担保し得る独立の証拠を指す。また、憲法38条2項にいう不当な抑留・拘禁後の自白として証拠能力が否定されるためには、逮捕から供述に至るまでの期間が、当時の手続上不当に長期にわたるものであることを要する。
重要事実
被告人Cは、第一審の公判廷において犯行を自白した。これに対し、証拠として司法巡査作成の差押調書及び占領軍作成の受領書が提出された。また、被告人Aについては、昭和24年4月2日に現行犯逮捕され、その6日後の同月8日に司法警察員に対して供述を行い、その内容が調書に録取された。被告人側は、これら自白の補強証拠の欠如や、不当な拘禁下の自白であることを理由に上告した。
あてはめ
1. 本件において、司法巡査B作成の差押調書及び占領軍作成の受領書は、被告人Cの公判廷における自白の内容と合致し、その真実性を裏付ける独立した証拠といえる。したがって、自白を唯一の証拠として認定したものとはいえない。 2. 被告人Aは現行犯逮捕から数日(6日)経過した後に供述しているが、この期間は当時の刑事手続に照らして不当に長い抑留・拘禁とは評価されない。ゆえに、当該調書の任意性に疑いを生じさせる事情とはならない。
結論
被告人の公判廷での自白を補強する証拠が存在し、また逮捕後の供述までの期間も不当に長いとはいえないため、証拠能力及び証明力の判断に憲法・刑訴法上の違法はない。
事件番号: 昭和25(あ)3387 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が、強制、拷問、脅迫によるものでなく、また不当に長く抑留または拘禁された後のものでない限り、その自白の真実性を裏付けるに足りる補強証拠が存在すれば、自白と併せて事実を認定することができる。 第1 事案の概要:被告人は昭和24年9月13日、窃盗容疑で逮捕状の執行を受け、同日中に警察署で取…
実務上の射程
補強証拠の範囲については、実体法上の罪体の一部を示すものに限られず、自白の真実性を保障するに足りる間接証拠(差押調書等)でも足りることを示す。また、自白の証拠能力を争う際、数日程度の身柄拘束のみでは「不当に長い抑留・拘禁」には該当しないという判断基準の参考となる。
事件番号: 昭和27(あ)6056 / 裁判年月日: 昭和29年4月20日 / 結論: 棄却
所論は憲法三八条刑訴三一九条違反を主張し、その論拠として捜査官A作成の犯罪捜査報告書は証拠能力を欠き被告人の自白に対する補強証拠たり得ないというに帰する。しかし右報告書(英文及び翻訳文)は、原判決の判示するとおり、第一審判決が、これを刑訴三二一条一項三号の要件を具備する書面に当るものと認めたことは正当であつて、その判断…
事件番号: 昭和25(あ)2324 / 裁判年月日: 昭和26年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の公判廷での自白に、被害者の供述調書や被害届などの証拠を併せることで補強証拠として認め、被告人を唯一の証拠によって処罰することを禁じた憲法38条3項に違反しないとした。 第1 事案の概要:被告人は進駐軍物資不法所持罪等の事実により起訴され、第一審の公判廷において犯行を自白した。第一審裁判所は…
事件番号: 昭和26(れ)2005 / 裁判年月日: 昭和27年12月26日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項が禁止する「自己に不利益な唯一の証拠」による有罪認定について、共同被告人や共犯者の自白は、被告人自身の自白とは別個の証拠として補強証拠となり得るため、これらを総合して有罪を認定することは憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Bは窃盗罪等の容疑で起訴された。原審(二審)において、…
事件番号: 昭和26(れ)59 / 裁判年月日: 昭和26年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の公判廷における供述は、憲法38条3項にいう「本人の自白」には含まれず、補強証拠を要することなく有罪判決の証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人は、連合国占領軍の財産に属する薬品「ダイヤヂン」の買受けに関し、盗品等譲受けの罪(または類似の法令違反)で起訴された。被告人は公判廷にお…