第一審裁判所が被告人の窃取したハンドバツク中に起訴状記載の現金の外パン購入券八枚が在中する旨を認定したからといつて、これを訴因に記載なき事項につき判断をなし被告人の防禦権を侵害した違法があるということはできない、けだし、被告人が被害者某所有の現金在中のハンドバツク一個を窃取した旨起訴状に記載された以上罪となるべき事実はこれにより特定されて居り、そのハンドバツク中に右現金の外価格の僅少な物が偶々在中したか否かは、何等右の如き公訴犯罪事実の特定を妨げるものではないからである。
訴因に記載なき事項につき判断したことにならない例―第一審裁判所が窃取されたハンドバツク中に起訴状記載の現金の外パン購入券八枚が在中する旨認定した場合
刑訴法256条,刑訴法378条3号
判旨
窃取したハンドバッグ内に起訴状記載外の僅少な物品が混入していた事実を裁判所が認定しても、公訴事実の特定を妨げず、被告人の防御権を侵害する違法はない。
問題の所在(論点)
起訴状に記載されていない僅少な被害物(パン購入券)を判決で認定することは、訴因の特定の程度に照らし、または訴因変更手続を経ない認定として、被告人の防御権を侵害し違法となるか。
規範
公訴事実の特定(刑事訴訟法256条3項)は、他の犯罪事実と識別できる程度になされていれば足りる。起訴状に記載された主要な客体により罪となるべき事実が特定されている限り、その内容物として僅少な物品が含まれているか否かの認定は、事実の同一性を損なうものではなく、被告人の防御権に対する実質的な不利益も生じない。
重要事実
被告人は、被害者所有の「現金在中ハンドバッグ1個」を窃取したとして窃盗罪で起訴された。第一審裁判所は、当該ハンドバッグの中に、起訴状に記載された現金のほか、パン購入券8枚が在中していた旨を認定した。これに対し弁護人は、起訴状に記載のない事項を認定したことは防御権を侵害し違法であるとして上告した。
あてはめ
本件では、被告人が特定の被害者のハンドバッグ1個を窃取したという事実に変わりはなく、公訴犯罪事実はこれにより明確に特定されている。ハンドバッグ内に、記載された現金のほかに価格の僅少なパン購入券が偶々混入していた事実は、犯罪事実の特定に影響を及ぼすものではない。したがって、このような細部の認定は、起訴状に記載された事実の範囲内、あるいはその付随的事実の認定にすぎず、被告人の防御を困難にするものではないといえる。
結論
訴因に記載のない僅少な物品の認定は、公訴事実の特定を妨げず、被告人の防御権を侵害しないため、適法である。
実務上の射程
訴因の特定と認定のズレに関する事案に射程が及ぶ。窃盗罪等において、主要な客体が特定されている場合に、その付随的な内容物の認定が多少前後しても、審判対象の識別や防御に支障がない限りは、訴因変更を要さず直ちに認定できることを示す一例として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)2871 / 裁判年月日: 昭和27年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白に対して、被害者の提出した盗難被害届は、被害金額等の細部に多少の相違があったとしても、犯罪事実の客観的側面を裏付ける補強証拠として許容される。 第1 事案の概要:窃盗罪に問われた被告人が公判廷において自白したが、その補強証拠として提出された被害者の盗難被害届には、被告人の自白内容と比較…