憲法三七条三項前段所定の権利は被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人がこの権利を行使する機会を与へその行使を妨げなければよいのである。(昭和二四年(れ)二三八号同年一一月三〇日大法廷判決)。ところで本件記録によれば被告人は第一審第一回公判期日の前日である昭和二四年九月七日弁護人を選任し、同弁護人は右第一回公判期日において異議なく弁論をし、立証準備のため公判期日の延期、続行を求めたことはなく、しかも、裁判所が弁護人の選任を妨げた形跡は毫も認められないのであるから論旨の理由のないことは明らかである。
憲法第三七条第三項前段の意義と同条に違反しない一事例
憲法37条3項
判旨
憲法37条3項の弁護人依頼権は、被告人が自ら行使すべき権利であり、裁判所は被告人にその機会を与え、かつ行使を妨げなければ、憲法上の義務を果たしたといえる。また、憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な苦痛を伴う人道上残虐な刑罰自体を指し、法定刑の範囲内での量刑の妥当性の問題を含まない。
問題の所在(論点)
1. 裁判所が被告人に弁護人を選任させるための積極的な措置を講じなかった場合、憲法37条3項前段(弁護人依頼権)に違反するか。 2. 法定刑の範囲内での量刑が重すぎる場合、憲法36条(残虐な刑罰の禁止)に違反するか。
規範
1. 憲法37条3項の権利:被告人が自ら行使すべき性質のものであり、裁判所は被告人に行使の機会を与え、その行使を妨げないことで足りる。 2. 憲法36条の「残虐な刑罰」:人道上残虐な刑罰(不必要な苦痛を課す刑種等)を指し、個別の事案における法定刑の範囲内の量刑の不当はこれに当たらない。
重要事実
被告人は第一審の第1回公判期日の前日に弁護人を選任した。選任された弁護人は、第1回公判において異議なく弁論を行い、立証準備のための期日延期や続行を求めることもなかった。その後、弁護人依頼権の侵害および量刑が残虐な刑罰に当たるとして上告された。
あてはめ
1. 弁護人依頼権について:被告人は公判前日に自ら弁護人を選任し、当該弁護人が公判で異議なく活動している。裁判所が選任を妨げた事実も認められない。したがって、裁判所は被告人に権利行使の機会を与えており、憲法37条3項の保障に反する点はない。 2. 残虐な刑罰について:本件の量刑は法定刑の範囲内で行われており、刑罰の種類自体が人道上残虐なものとはいえない。量刑の当否は憲法36条の問題とはならないため、同条違反の主張は当たらない。
結論
1. 裁判所が弁護人の選任を妨げず、行使の機会を与えている以上、憲法37条3項違反とはならない。 2. 法定刑の範囲内の量刑は、憲法36条の「残虐な刑罰」には該当しない。上告棄却。
実務上の射程
弁護人依頼権の性質が「被告人の権利行使を妨げない」という消極的側面に重点があることを示す。また、量刑不当を憲法36条違反として構成することの限界を画定した判例であり、憲法上の主張の適格性を判断する際の基礎となる。
事件番号: 昭和26(あ)1989 / 裁判年月日: 昭和28年3月20日 / 結論: 棄却
本件記録によると原審は被告人に対し控訴趣意書提出最終日を昭和二五年一〇月一四日と定めて通知し、被告人は同年一〇月九日自ら作成した控訴趣意書を提出し、原審は昭和二六年三月一二日弁護人を国選し、右国選弁護人は同日の公判期日において異議なく被告人の控訴趣意書に基き陳述し、弁論を終結していること及び原審においては弁護人を選任し…