本件記録によると原審は被告人に対し控訴趣意書提出最終日を昭和二五年一〇月一四日と定めて通知し、被告人は同年一〇月九日自ら作成した控訴趣意書を提出し、原審は昭和二六年三月一二日弁護人を国選し、右国選弁護人は同日の公判期日において異議なく被告人の控訴趣意書に基き陳述し、弁論を終結していること及び原審においては弁護人を選任し得る旨の告知をしなかつたことが判るのであるが、原審における右手続が憲法三七条三項に違反するものではない。
控訴審における弁護人の選任の時期と憲法第三七条第三項
憲法37条3項,刑訴法289条,刑訴規則178条,刑訴規則250条
判旨
憲法37条3項前段の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべき権利であり、裁判所は行使の機会を与え、その妨げをしなければ足りる。また、同項後段は裁判所に対し、被告人へ弁護人の選任を請求し得る旨を告知する義務までを課すものではない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人に対し、弁護人を選任し得る旨を告知しなかったことが、憲法37条3項が保障する弁護人依頼権に違反するか。
規範
憲法37条3項前段の弁護人依頼権は、被告人が自ら行使すべきものである。裁判所は、被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足り、同項後段の規定も、被告人に対し弁護人選任を請求し得る旨を告知する義務を裁判所に課すものではない。
重要事実
被告人は控訴審において、控訴趣意書提出最終日の通知を受け、自ら作成した控訴趣意書を提出した。原審裁判所は公判期日に国選弁護人を選任し、当該弁護人は被告人の控訴趣意書に基づき異議なく弁論を行った。しかし、原審の手続過程において、裁判所は被告人に対し「弁護人を選任し得る旨」の告知を行っていなかった。
あてはめ
憲法37条3項は、被告人が自ら弁護人依頼権を行使する機会を確保し、それを妨げないことを裁判所に求めているに過ぎない。本件では、被告人には控訴趣意書を自ら作成し提出する機会が与えられており、その後の公判期日では国選弁護人が選任され、被告人の意向に沿った弁論が行われている。裁判所が弁護人選任権の存在を積極的に告知しなかったとしても、被告人が権利を行使する機会が実質的に奪われたり、行使が妨げられたりしたとはいえない。
結論
原審の手続は憲法37条3項に違反しない。したがって、告知を欠いたとしても適法である。
実務上の射程
弁護人依頼権の性質が「被告人の自発的行使」を前提とするものであることを示した射程の広い判決。現在の刑事訴訟法下では告知義務が詳細に規定されているが、憲法上の最低限度の保障としては「機会の付与と不干渉」で足りるという判断枠組みとして、権利の性質論を論じる際に参照し得る。
事件番号: 昭和25(れ)824 / 裁判年月日: 昭和25年7月27日 / 結論: 棄却
憲法第三七條三項は、被告人が自ら辯護人に依頼することができない場合には國でこれを附する旨を被告人に告知すべき義務を裁判所に負わせているものではない。
事件番号: 昭和25(あ)2226 / 裁判年月日: 昭和27年3月18日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の権利は被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人がこの権利を行使する機会を与へその行使を妨げなければよいのである。(昭和二四年(れ)二三八号同年一一月三〇日大法廷判決)。ところで本件記録によれば被告人は第一審第一回公判期日の前日である昭和二四年九月七日弁護人を選任し、同弁護人は右第一回公判期日に…