判旨
被告人の公判廷における供述について、裁判所が刑訴法311条に基づく質問権を行使せずに釈明を求めないまま有罪判決を維持しても、直ちに訴訟手続の法令違反や著しい不当を招くものではない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人の供述に対し、刑訴法311条に基づく質問を行わずに釈明を求めなかったことが、刑事訴訟法上の手続違反(405条)や、判決を破棄すべき著しい不当(411条)に該当するか。
規範
裁判所が被告人に対し、公判廷での供述内容を具体化させたり、矛盾を釈明させたりするための質問(刑訴法311条)を行うか否かは、原則として裁判所の裁量に委ねられる。職権による事実取調べの一環として、訴訟の進行状況に照らし、著しく正義に反すると認められる特段の事情がない限り、質問を行わなかったことが直ちに違法となることはない。
重要事実
被告人は、原審(控訴審)において自らの主張や供述を行ったが、原判決(上告対象となった判決)は、その供述の不備や疑問点について裁判所が自ら質問して釈明を求めることなく、被告人の上告を棄却した。弁護人は、裁判所が真実発見のために適切な質問権を行使しなかったことが、刑訴法405条の定める上告理由、あるいは411条の定める著しい不当に該当すると主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所は、記録を精査した結果として、原審の判断プロセスに刑訴法405条所定の上告理由(憲法違反や判例相反)は存在しないと判断した。また、職権で破棄すべき事由を定めた刑訴法411条(事実誤認や量刑不当、著しい正義に反する場合等)の適用を検討しても、裁判所が釈明を尽くさなかったことが同条を適用すべき重大な瑕疵には当たらないと評価した。
結論
本件上告には刑訴法405条の上告理由はなく、また同法411条を適用すべき事由も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
裁判所の釈明義務・質問権行使の限界に関する判例である。実務上、被告人の供述が不十分であっても、裁判所が当然にそれを補完する義務を負うわけではないことを示しており、弁護側としては、裁判所の職権行使に頼るのではなく、適切な立証・供述の整理を自ら行う必要があることを示唆している。
事件番号: 昭和25(あ)2117 / 裁判年月日: 昭和26年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本決定は、刑事訴訟法405条の上告理由に該当しないとして上告を棄却した。具体的な論点判断は示されていないが、上告趣意に正当な理由がなく、職権による判決取り消しも必要ないと判断されている。 第1 事案の概要:被告人が原判決を不服として最高裁判所に上告を申し立てた。弁護人は、上告趣意を提出したが、具体…