同弁護人は同二五年一月一六日附控訴趣意書を、被告人は同月五日附控訴趣意書を、それぞれ、同月一六日に原審に提出していることが記録上明らかである。されば右控訴趣意書は、いずれも、控訴趣意書提出最終日たる一月六日後に原審に提出されたもので、不適法のものといわなければならぬから、原審はかかる控訴趣意書のいずれについても判断を示すことなく刑訴第三八六条第一項第一号に従つて控訴を棄却すべき筋合であるといわなくてはならぬ。しかるに原審が弁護人の控訴趣意について判断を示したのは刑訴規則第二三八条によつて同控訴趣意書提出の遅延がやむを得ない事情に基くものと認め期間内に差出したものとして審判したものと推断する外はない、そして控訴趣意書提出の遅延がやむを得ない事情に基くかいないか、従つて期間内に差出したものとして審判するかいなかは原審の裁量に属するところと解すべきであるから、原審が被告人の控訴趣意書については期間内に提出したものとして審判をしなかつたからといつて原判決を違法ということはできない。
決定期間経過後に提出された控訴趣意書に対する審判と裁判所の自由裁量
刑訴法386条1項1号,刑訴法376条1項,刑訴規則238条
判旨
控訴趣意書の提出遅延が「やむを得ない事情」(刑訴規則238条)に基づくか否か、及び期間内に差し出されたものとして審判するか否かは、裁判所の合理的な裁量に属する。
問題の所在(論点)
控訴趣意書が提出期限を徒過して提出された場合において、一部の趣意書のみを適法なものとして受理し、他を無視することが裁判所の裁量として許されるか。
規範
控訴趣意書の提出遅延について、刑事訴訟規則238条を適用して「やむを得ない事情」に基づくものと認め、期間内に差し出されたものとして受理し審判の対象とするか否かは、裁判所の裁量に属する判断事項である。
重要事実
被告人の控訴申立後、裁判所は控訴趣意書提出最終日を昭和25年1月6日と指定して通知した。被告人は期限前の1月5日付で趣意書を作成したが提出は1月16日となり、選任された弁護人も同月16日に趣意書を提出した。原審は、弁護人の提出した趣意書については「やむを得ない事情」があるものと推断して審判の対象としたが、被告人本人の提出した趣意書については判断を示さなかった。被告人はこれが判断遺脱の違法であると主張して上告した。
あてはめ
被告人及び弁護人が提出した各控訴趣意書は、指定された1月6日の期限を過ぎて提出されたものであり、本来であれば刑訴法386条1項1号により控訴棄却とされるべき不適法なものである。原審が弁護人の趣意書についてのみ内容上の判断を示したのは、刑訴規則238条により遅延に「やむを得ない事情」があると認めたためと推断される。このような事情の有無及び受理の判断は裁判所の裁量に属する。したがって、弁護人の趣意書を受理する一方で、被告人本人の趣意書を期間内提出のものとして扱わず判断を示さなかったとしても、裁量の範囲内であり、判断遺脱の違法があるとはいえない。
結論
原審が被告人の遅延した控訴趣意書について審判しなかったことは違法ではなく、上告を棄却する。
実務上の射程
期限徒過後の控訴趣意書の救済(刑訴規則238条)に関する裁判所の広範な裁量を認めたものである。実務上、期限厳守が原則であるが、裁判所が裁量で受理した部分については適法な審判対象となる一方、受理しなかった部分について不服を申し立てることは困難であることを示している。
事件番号: 昭和25(れ)1897 / 裁判年月日: 昭和26年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行を猶予するか否かは、事実審たる原裁判所の裁量権に委ねられている事柄であり、被告人に有利な事情があるとしても、執行猶予を言い渡さないことが直ちに違法となるものではない。 第1 事案の概要:被告人が刑の執行猶予を求めて上告した事案。上告人は、被告人にとって有利な諸事情(詳細は判決文からは不明)…