大審院判例と相反する判断をしたとしたという主張は、最高裁判所の判例がない場合に初めて上告理由とすることができるのであり(刑訴法第四〇五条第三号)判例違反を上告理由とする場合には刑訴規則第二五三条により当該判例を具体的に示すことが要求されているのである。そして論旨援用の大審院判例と同趣旨の判例は最高裁判所にも数多く存するのであるから、ことさらに大審院判例を掲げてこれが違反を主張する論旨は適法な上告理由とならない。
最高裁判所に同旨判例の存する大審院判例違反主張と上告理由
刑訴法405条3号
判旨
強盗傷人罪(刑法240条前段)は、強盗の機会において人を負傷させた場合に成立し、財物奪取の実行の着手以前であっても、強盗に着手する目的で暴行を行い、その際に負傷させたのであれば同罪が成立する。
問題の所在(論点)
強盗の実行の着手(財物奪取に向けた暴行・脅迫の開始)に至る前の段階で人を傷害した場合に、強盗傷人罪(刑法240条前段)が成立するか。同罪における「強盗」の意義および着手時期が問題となる。
規範
強盗傷人罪(刑法240条)の成立には、必ずしも強盗罪(236条)の実行の着手を前提とせず、「強盗を為す者」が「強盗を為すの機会において」人を傷害すれば足りる。
重要事実
被告人A、B、CおよびDらは、強盗を行う目的で現場に赴いた。被告人らは、財物奪取に向けた直接的な実行の着手(強盗の着手)に至る前の段階、すなわち予備的段階にある状況下において、強盗の機会に人を傷害するに至った。弁護人は、強盗の実行の着手がない以上、強盗傷人罪は成立せず強盗予備罪と傷害罪の併合罪にとどまると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人らは主観的に「強盗を為す者」としての意図を有しており、客観的にも「強盗を為すの機会」において傷害行為に及んでいる。強盗傷人罪は強盗の機会に行われた負傷を重く処罰する趣旨であるから、財物奪取のための暴行・脅迫自体が未だ開始されていない予備段階であっても、強盗の犯行に関連して行われた傷害であれば同罪の構成要件を充足すると判断される。したがって、予備段階であることを理由に同罪の成立を否定することはできない。
結論
被告人らには強盗傷人罪が成立する。強盗の実行の着手に至る前であっても、強盗の機会に傷害が生じた以上、同罪の適用は妨げられない。
実務上の射程
強盗傷人罪の既遂・未遂の区別は「傷害」の発生有無で決まる(判例)。本判決は、財物奪取の着手前であっても傷害が発生すれば同罪が成立することを示しており、答案上では、強盗予備段階での傷害事案において、240条の「強盗」を身分ないし行為態様として広く捉える論拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)703 / 裁判年月日: 昭和26年7月5日 / 結論: 棄却
強盗傷人罪が成立するには、強盗の機会に傷害の結果を発生せしめるを以て足りるものであつて、必ずしも強盗の手段である暴行又は脅迫により人を傷害し、又は傷害の意思を必要とするものではない。