判旨
憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的・肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を指す。法律の範囲内で量定された実刑は、被告人にとって過重に感じられたとしても「残虐な刑罰」には当たらない。
問題の所在(論点)
事実審の裁判官が法律の許容する範囲内で量刑を決定し、実刑を科すことが、憲法36条により絶対的に禁止される「残虐な刑罰」に該当するか。
規範
憲法36条にいう「残虐な刑罰」とは、その刑罰そのものが不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とするものであり、人道的見地から残酷と認められるものを指す。裁判官が法律に定められた範囲内で刑の量定を行った場合、それが被告人にとって主観的に過重な刑(実刑)であったとしても、直ちに同条にいう「残虐な刑罰」に該当することはない。
重要事実
被告人は昭和21年勅令311号(連合国軍関係事項)違反の罪に問われ、第一審において実刑を言い渡された。これに対し弁護人は、被告人に実刑を科すことは不当に重く、憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」に該当し憲法違反であると主張して上告した。
あてはめ
本件において、第一審裁判所が被告人に対して下した判決は、法律によって認められた刑罰の範囲内で行われたものである。憲法36条の趣旨は、刑罰の性質や執行方法が非人道的であることを禁ずる点にある。したがって、適法な量刑の範囲内で行われた実刑判決が、単に被告人の主観において過重であると感じられることは、刑罰の態様自体が不必要な苦痛を伴う非人道的なものであることを意味しない。ゆえに、本件の量刑判断に憲法違反の点はない。
結論
被告人に対して法律の範囲内で実刑を科すことは、憲法36条の禁止する「残虐な刑罰」に当たらない。
実務上の射程
事件番号: 昭和23(れ)904 / 裁判年月日: 昭和23年12月16日 / 結論: 破棄自判
一 昭和二二年六月二七日から同年八月二五日までの間において行われた連合国占領軍の財産を不法に所持した行為は、昭和二一年勅令第三一一号第二条第三項、第四条を適用して処断すべきである。 二 證人申請の採否も原審の自由裁量に屬すること言うまでもないから、原審がそれを採用しなかつたからとて、憲法第三七條第一項の公平な裁判所の裁…
憲法36条の「残虐な刑罰」の定義を示すリーディングケースである。死刑制度の合憲性や、特別法による重罰化が争われる事案において、比較衡量や人道上の許容限度を検討する際の基礎的な規範として用いられる。答案上は、刑罰の過酷さが問題となる場面で、本判例の定義を引用しつつ、当該刑罰が「不必要な精神的・肉体的苦痛」を強いるものか否かを具体的に検討する。
事件番号: 昭和24(れ)1480 / 裁判年月日: 昭和26年7月20日 / 結論: 破棄自判
一 昭和二〇年一二月連合国軍最高司令官総司令部参謀副官発第三号日本政府に対する覚書、神道指令の4は「日本政府、県及び市町村の凡ての官公吏、属官、雇員並にあらゆる教師、教育職員、市民及び居住者は本指令の一切の規定の字句並に精神を遵守することに対し個人的責任を負うべきものである」と規定しているのであるが、それは右に規定した…
事件番号: 昭和24(れ)863 / 裁判年月日: 昭和24年7月9日 / 結論: 棄却
わが國在留の朝鮮人が、たとえ、故國に引揚げるにしても、正規の手續を經ないで、密航することは、原判決掲記のごとき連合國最高指令官の各覺書に示された同司令官の日本國政府に對する司令の趣旨に反することは、右各覺書の内容に照し明らかであり、連合國最高司令官の日本國政府に對する司令の趣旨に反する行爲が、連合國占領軍の占領目的に有…
事件番号: 昭和26(あ)1517 / 裁判年月日: 昭和26年10月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】ポツダム宣言の受諾に伴い発せられたいわゆるポツダム勅令(昭和20年勅令第542号等)は、憲法に適合し、有効である。 第1 事案の概要:被告人は、昭和20年勅令第542号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件)及び昭和21年勅令第311号(連合国軍総司令官の要請に基づく命令の実施等に関する件…
事件番号: 昭和25(あ)1848 / 裁判年月日: 昭和31年1月25日 / 結論: その他
一 第一審判決は、被告人らが共謀のうえ「いま福井県敦賀市では占領軍兵員により婦女子に対するにくむべき強姦がいたるところでおこなわれていて、恐怖におそわれた敦賀市民は娘をどしどし疏開させている。うんぬん」という意味の真実に符合せずかつ公安を害するおそれある事項を掲載した新聞を印刷したとの事実を認定して、昭和二一年勅令第三…